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源氏物語 夕顔の巻 概略27(空蝉の下向~青春との訣別 )
・ 空蝉の退京が決まる
伊予介は十月朔日頃に空蝉を連れて任地に発つことになっています。
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「女たちを連れていくのでは大変であろう」という心遣いにことよせて、源氏は破格の餞別を与えます。
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それとは別に素晴らしい細工の櫛や扇などを、空蝉一人に秘密に贈りました。
・ 小袿を返す
道中の無事を祈って神々に供える幣帛の布類も大袈裟なように贈ってやり、その中にあの脱ぎ置いた 空蝉の小袿 も紛らせて、返してやりました。
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「また逢えるまでの形見の品として持っていたのに、袖が涙で朽ちるほどの時が経ってしまいました」
などと文を付けてやります。
贈り物と文と残した薄衣を受け取った空蝉は、餞別の使者が帰った後で、小君に小袿のことだけを言づけました。
「蝉の衣替えも終わった頃に、あなた様に返された空蝉の衣を見ても、空蝉の衣を裏返して纏い寝てみても、ただ泣かれるばかりでございます」
・ 通り過ぎる者たち
「並外れて意志の強い人だった」
「この私になびかないまま、こうして、心だけでなく本当の距離までも、あの人も、離れて行ってしまうのだなあ」
源氏は身に沁みて感じています。
・ 立冬
空蝉の発つ神無月の朔日とは暦の上では立冬です。
空はそれらしく時雨れてきて、日がな物思いに沈む源氏です。
「亡くなった人は六道のいずこへか、今日発つ人は遠い四国路へ、それぞれに去って行く」「残された身に孤独の沁みて秋が過ぎていく」
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夕顔と空蝉。
二人の中流の女が源氏の元から時を同じくして去って行き、源氏は一人、孤独の中に取り残された思いでいます。
〖 お若い源氏君も、秘密の恋は苦しいものだとつくづく思い知られたことでございましょう。
中流程度の人をお相手になさった恋を知る者は皆、人に言うことでもないと口をつぐんでいたのでございますが、知らぬ人の中には、「いくら帝の御子でいらしても、お相手も皆様欠点のない方ばかりというのは作り話だろう」とおっしゃる向きもございましたので、ついあれこれ申したくなってしまったのでございます。
お喋りが過ぎまして、弁解の余地のないことでございます 〗
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Cf.『夕顔の巻』空蝉の下向~青春との訣別
眞斗通つぐ美