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65なんちゃって図像学(2) 末摘花の巻③ 十六夜の盗み聴き
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・ 十六夜の盗み聴き
言った通りに、源氏は月の美しい十六夜の晩に、故常陸親王邸の対の屋の大輔の命婦の居室にやってきました。
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🔴命婦
「困りましたわ」「音楽向きの気候でもございませんでしょう」
🔷源氏
「いいからさ」「寝殿の方に行って、ちょっとだけ弾いてくださるように姫君に申し上げて来てよ」「このまま帰るんじゃつまらないからさ」
◎ 大輔の命婦は、この最上の貴公子を取り散らかした私室に置いていくのを申し訳なく思いながら、寝殿に向かいます。
◎ 寝殿の辺りには梅の香りが満ちていて、姫君はまだ格子も上げたままで庭を眺めていましたので、命婦は丁度よかったと思います。
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🔴命婦
「あんまり梅の香りが素晴らしいので、こんな夜にはお琴の音もさぞ冴え渡るだろうと思われて出て参りましたの」
「いつもは気ぜわしくバタバタしておりますのでね、姫様のお琴を聴かせていただけないのをずっと残念に思っておりましたのよ」
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🔶姫君
「あなたに聴かせるような腕前ではないわ」「断琴の交わりという言葉がある位に聞巧者は珍しいと言うけれど、あなたは御所で当代の名人上手を聴き慣れた人ですもの」「聞き知る人ね」
(📖 琴の音を 聞き知る人のありければ 今ぞ立ち出でて 緒をもすぐべき(古今集) 伯牙断絃の故事のように琴の心を理解する人がいるならばすぐに琴の緒を張ろう)
◎ そうは言いながらも琴を持って来させるので、今更ではありますが、命婦は、源氏が姫君の琴にどんな批評を下すのか気が気ではなくなります。
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◎ かすかに掻き鳴らす琴は興趣深く聴こえました。名手というほどでもありませんが、琴(きん)の琴の珍しい異国的な音色なので聴き苦しいことはありません。
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🌷🌷🌷『琴を盗み聴く源氏』の場の目印の札を並べてみた ▼
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🔷源氏
『親王の御娘の御身分の方だから、昔風に仰々しくかしずかれ大切に守られておられたろうものを』『父宮薨去の後は邸もこんなに荒れ果て寂しくなって、今や栄華の名残りもなくなってしまっている』『遺された姫君はさぞ物思いも尽きずにおられるだろう』
『昔物語では、こんな所にこそしみじみした佳人の話があるものだが、さてこの姫君は…』
◎ 源氏は、あれこれ考えるにつけ言い寄ってみようかと思いますが、あまりに唐突に思われるだろうかと気が引けて躊躇してしまいます。
◎ 大輔の命婦は目はしの利く人なので、それほどの技量でもない姫君の琴を長く聴かせて粗が目立ってしまってはいけないと思います。
🔴命婦
「あら、雲が出て月も見えなくなりましたわ」「そうそう、私の所にお客が来ることになっておりました」「嫌がってすっぽかしたように思われても困りますから」「今度また落ち着いた時にゆっくりお聴かせくださいませね」「そろそろお格子も下げましょう」
◎ 大輔の命婦は、そんなことを言って、姫君に長く弾かせないように切り上げさせて、源氏の待つ部屋に帰って来ました。
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🔷源氏
「半端なところで終わってしまったなあ」「あれでは良し悪しの言いようもないよ」「残念だなあ」
◎ そんなことを言うので、源氏の君は姫君に興味を持ったようだと、命婦は思いました。
🔷源氏
「どうせなら、もっと近くで聴かせてよ」
◎ 命婦は、姫君の情報を小出しにして気を持たせようと目論んでいます。
🔴命婦
「さあ、それはちょっと」「ひっそりと消え入らんばかりに暮らしていらっしゃるのですもの」「痛々しい御様子でいらっしゃるのが心配で、そんな浮かれたようなことはちょっと」
🔷源氏
『確かにそうだ』『突然ずかずかと親しく入り込んでいいような方ではないのだ』
◎ 源氏は、彼我共々の身分のことがしみじみ思われて、ますます興味を惹かれます。
🔷源氏
「やはり、お慕いしている者がいることだけはそれとなくお伝えしてくれよ」
◎ そう言って源氏は帰りかけます。
🔴命婦
「帝が、あの人は真面目過ぎて困ると仰せになるのが、時々可笑しくなりますの」「帝はこんなお忍び姿をご覧になれませんものね」
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をかしう 思うたまへらるる折々はべれ
◎ 源氏は、引き返して来て、笑いながら一矢報います。
🔷源氏
「乳兄妹のあなたが世間の口みたいに粗探しするのはやめてよ」「これを浮気と言うなら、どこかの命婦さんはどうなるのさ」
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◎ 命婦は、源氏が自分を身持ちの悪い女と思っているから折に触れてこんなことを言うだと思って、気恥ずかしいやら面倒やらで黙っています。
眞斗通つぐ美
📌 まとめ
・ 琴を盗み聴く源氏
https://x.com/Tokonatsu54/status/1711273665105650042?s=20