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79なんちゃって図像学(13) 末摘花の巻⑰ 若紫の姫君との日々


・ 桜の細長を着た若紫と遊ぶ

二条院に帰りました。
若紫の姫君が源氏の帰りを待っています。
11歳になった若紫の姫君は、もう全くの子供でもなく、さりとて大人になりきるでもなくて、一瞬の光芒のように儚くも匂やかな少女の時代を迎えています。
無地の桜の色の細長を柔らかく着ています。
白い薄絹の下に透けている紅色が鮮やかに目を惹きます。
同じ紅でもこんなに愛おしい紅もあるのか」と源氏は思います。
無心に遊んでいる姫君はいじらしく可憐です。
昔気質の祖母上が、裳着が済むまではとお歯黒もさせなかったのを、二条院では化粧させているので、眉も鮮やかになってきららかな美貌が際立っています。

源氏は、我に返る思いで、「私はどうしてわざわざ自ら求めてあれやこれやの面倒事にかかずらっているのだろう」「このいたいけな人をほったらかして」と思います。
いつものように一緒にお雛遊びを始めます。

・ 鼻を紅く染める源氏

姫君は、今度は絵を描いて色を塗り始めます
いろいろ描き散らしているのがどれも上手です。
源氏も一緒に描き始めました。
髪のとても長い女を描いて鼻に紅色を落として見てみると、絵とは言っても相当に醜くなってしまいます。

≪立派な源氏物語図 鼻を紅く塗って若紫と戯れる≫

🌷🌷🌷『鼻を紅く塗って若紫と戯れる』の場の目印の札を並べてみた ▼

に映っている自分の顔を見ると大層華やかに美しいのですが、ふと悪戯したくなってしまいました。
鏡を見ながら鼻を赤く塗ってみます。
これだけの美貌でも、鼻に、ほんの一筆の紅を置くだけで見苦しくなるようです。
若紫の姫君は、鼻の赤くなった源氏を見てとても可笑しがります。

源氏が真面目くさって、「私の鼻が本当にこんな風に赤くなってしまったらどう?」と言うと、
姫君は「とっても嫌」と言って、本当に赤鼻になってしまったらどうしようと心配します。
源氏は拭ったふりをして、「おや、どうしても白くならない」「つまらない悪戯をしてしまったものよ」「帝に何と申し上げよう」と大真面目に言います。
姫君は可哀想でたまらなくなって、紙に硯の水入れの水を含ませて源氏の鼻を拭おうとします。

いといとほしと思して 寄りて 拭ごひたまへば
平中がやうに 色どり添へたまふな 赤からむはあへなむ と戯れたまふさま
いとをかしき妹背と 見えたまへり

源氏は、硯の水入れというところから、「平中のように黒くしないでくださいな」「赤いのはまだ我慢できるけれど」
とふざけます。
とても心配してから冗談とわかってぷっくりとふくれて、それから花のように笑う姫君が、源氏は可愛くてたまりません。
傍目には、とても仲良しの兄妹のように見えます。

・ 階隠の紅梅 🌺

日がとてもうららかで、花が待たれるように梢が霞み渡っている中に、梅だけは向こうの方まで咲いています。

日のいとうららかなるに いつしかと霞みわたれる梢どもの 心もとなきなかにも
梅はけしきばみ ほほ笑みわたれる とりわきて見ゆ

階隠(はしかくし)の元にある紅梅は特に早く咲く花で、もう華やかに色づいています。

赤いはなはいやだなあ。赤いはなを付けた元の木がいやなわけではないのだけれど。赤いはなを付けたあの方がいやなわけではないのだけれど」
(📖 紅の花ぞ あやなく うとまるる 梅の立ち枝は なつかしけれど)
「いやはや何とも」と若紫の姫君には関係もないことで溜息をつく春の日の源氏です。

🍵 さてさて、源氏の君の若気の時代のお話はここまでとなりましょうか。
源氏の君も女君の皆様も、これからどうおなりなのでしょうか。

…………………

📌 平中

平中は、色好みの貴公子 平貞文という人のことだそうです。
大して好きでもない女を口説く時には涙も出ないので、
硯に水を差す水滴という小瓶に水を入れたのと畳紙に丁子(クローブ)を包んだのを携行して、女の隙を見て、水滴の水を目の周りに塗って泣いたふりをして、口に丁子を含んで息を香しくしていたそうです。
その仕掛けを見付けた妻は、水滴には墨汁を混ぜ、丁子の代わりに鼠の糞を包んでおきました。
いつものように嘘涙で外の女にちょっかいを出そうとした平中は、良い香りの息にするつもりで汚いものを口に含んでしまい、目の周りを墨で真っ黒にした顔で唾を吐きながら、ほうほうのていで帰宅しました。
それに懲りた平中は、それ以来、噓涙と口腔芳香剤の仕込みをやめたそうです。

平中がやうに 色どり添へたまふな 赤からむはあへなむ

…………………

📌 階隠(はしかくし)

階隠(はしかくし)とは、寝殿の南中央の階のところだけ張り出した屋根のことで、大臣以上でなければ付けられないものだそうです。
本文『📖 階隠のもとの紅梅 いととく咲く花にて 色づきにけり』とは、こんなことでしょうか。 ↓

http://www.ktmchi.com/SDN/SDN_012-3.html様 『年中行事絵巻』巻三・闘鶏 より

二条院は、亡き桐壺更衣の里邸を、源氏の為に、桐壺帝の御声がかりでふたつとなく美しく改築した邸です。
(📖 里の殿は 修理職 内匠寮に宣旨下りて 二なう改め造らせたまふ もとの木立 山のたたずまひ おもしろき所なりけるを 池の心広くしなして めでたく造りののしる 『桐壺の巻』)
更衣の父は按察使大納言ですから、階隠の許される大臣に届いていません。按察使大納言邸時代には階隠はなかったのかもしれません。
二条院造成時代には源氏は親王宣下はなくとも皇子だったので、普通に許された階隠だったのか、特別の勅許あっての階隠だったのか。
臣籍降下した源氏はこの時はまだ中将なので、自分で新築するとなると階隠は許されなかったのでしょうか。
…………………

📌 桜の合わせ色目

桜の合わせ色目のバリエーション

綺陽装束研究所様より

眞斗通つぐ美

📌 まとめ

・ 若紫と絵を描いて戯れる
https://x.com/Tokonatsu54/status/1711304752116752769?s=20


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