30 なるべく挿絵付き 夕顔の巻 バッキンガム宮殿的なのが大好き💕な二大スター だけど藤壺に強盗侵入とか
・ 滝口の弦打ち
源氏は暗闇の中、渡殿で眠りこけている滝口と随身と侍童を起こしました。
滝口は、弓の弦打ちをしながら(多分)親のいる詰所の方に去ります。
それを見送る源氏は宮中の、殿上人の名対面と滝口の宿直奏しのことを思います。
・ 枕草子に詳細が!
殿上人の名対面と滝口の宿直奏しについては、枕草子に少し詳しく書いてあります。
📖 枕草子56段『殿上の名對面こそ』
📖 殿上の名対面って素敵なのよ!
帝の御前に誰かいる時はそのまま点呼して宿直メンバーになるのね。
そうじゃない宿直人が殿上間の方にどやどや足音を立てて出てくる時にはね、
定子様の弘徽殿上御局から東の廊下の方に耳を澄まして聞いちゃうんだけど、
知ってる男の名前が聞えるとドキドキしちゃうわよ。
夜中に忍んで来たくせに名乗らなかった男の素性なんかを、この時に聞いちゃうこともあるのよね。
名乗りが素敵とかパッとしないとか、女房達は批評して楽しむの。
1000年ちょっと先の皆さんがアイドルの自己紹介にあれこれ言い合うようなものかしらね。
📖 それが終わると今度は滝口よ。
滝口たちがね、弓を鳴らしながら沓を鳴らしてザワザワ出てくると、
蔵人が大きな音を立ててドカドカ板敷を踏み鳴らして、
東北の隅の高欄のところに高膝ついて、
帝の御前の方を向いて、滝口に背を向ける形で「誰がいるのか」と訊くの。
素敵なのよお!
滝口は高い声とか細い声とかで名乗るんだけど、
揃ってないと、宿直奏しできないことを帝に奏上申し上げるの。
📌 殿上間に詰める時の服装規則
宿直の殿上人の装束は、
文官は縫腋袍(ほうえきのほう 脇を縫い合わせてある袍)、
武官は闕腋袍(けってきのほう 脇が開いている袍)で、
殿上間で宿直の時には袍の色は位階に即した色、という決まりがあったそうです。
時代にもよるらしく、私には詳しくわからないのですが。
三位以上の紫色系の高官も殿上間で宿直するのかわからないので、
図の宿直人の袍の色は、四位の深緋色、五位の浅緋色と、昇殿を許された者もごく僅かにいたという六位の深緑色、身分が低くても昇殿しないとお仕事できないので許されていた蔵人の縹色を一応塗ってみました。
武官が胡簶(やなぐい)まで背負って弓を持って顔の横に緌(おいかけ)まで付けて徹夜していたのかどうかわからないのですが、武装していなければ宿直の役に立たないわけですから、一応完全武装のつもりで描いてみました。
(📌 源氏に宿直?)
臣下に下った源氏が宮中の曹司として桐壺を与えられ、左大臣家の息子達その他やたら宿直に来たがる、というようなことが書いてあったと思うのですが、
源氏のところで宿直するのは公務なのでしょうか。高官だから?でも頭中将も同格だし…。
源氏も帝の宿直はしているようですが。
『雨夜の品定め』の時の宿直の性格がわからないままでいます。
📌 滝口
滝口は白い水干。
庭の警備担当で、清涼殿の北の方の滝状に水の落ちてくるところの渡殿に詰所があったので、滝口と呼ばれたようです。
📌 大晦日の夜、後宮に強盗、女二人を裸に
📖 紫式部日記44段 『つごもりの夜、追儺は』に
女蔵人二人の装束を奪って裸にして、追剥強盗が逃走した事件のことが書かれています。
この時には追儺の行事が終わって皆退出してしまって滝口もいなかったとあるので、
📖 宮のさぶらひも 滝口も 儺やらひ果てけるままに みなまかでてけり。手をたたきののしれど いらへする人もなし。
滝口であろうと、ことあって呼ばれれば、中宮の御前に踏み込むことも禁忌ではなかったのでしょうね。
『源氏物語』では、朝廷の管理下にあったのか、なにがしの院の管理の者という人がいて、その息子の滝口が源氏と従者と一緒に渡殿で宿直していましたが、紙燭を差し出すのに、卑賎の身とて母屋に上がれず、源氏に「いいから上がって持って来い」と叱責されていました。
📖 紫式部日記に書き残された事件
中宮様の御座所の方で異様な大声がする。中宮様は上御局でなく、飛香舎(藤壺)に下がっておられたが、とにかく中宮様の御様子をと、こわごわ3人で行くと女蔵人が2人裸で蹲っていた。
人を呼んでも手を叩いても誰も来ないので、御膳係の下級女官に「殿上の間に六位の蔵人の兵部丞がいるから呼びなさい」と命じます。
まさか、殿上間の宿直って一人しかいないの?と思うと、そういうわけではなく、六位の蔵人の兵部丞とは式部さんの弟の惟規という人で、偶々弟がいたので呼ばせた、ということのようです。
📌 式部さんがどこで悲鳴を聞いたかわかりませんが、のんびりしていたなら自分の局、つまりは藤壺の中のどこかにいたということでしょうか。
彰子様は藤壺に下がっておられた、急いで様子を見に行ったら女が2人、裸にされて蹲っていた、
…ということは、事件はやはり藤壺で起きて、気の毒な2人の女蔵人は、藤壺の、踏み込まれやすい端近なところにいたのでしょうか。
殿上間は清涼殿の南端ですから、声の届きにくい距離とは思いますが、
滝口は、帰っちゃったんだか見回りしてたんだかわかりませんが、交番が空っぽみたいな絶望感だったことでしょう。
宮中の中宮の御座所近くに強盗侵入って、、、
関白太政大臣が紫宸殿で鬼に襲われるんだから、不思議でもないのでしょうか。
📌 なにがしの院での絶望
声を立てても手を叩いても誰も助けに来てくれないという、なにがしの院での源氏の絶望は、もしかしたら、式部さんのこの時の恐怖体験に触発されて描かれたのかという気もしてきます。
📌 名対面の華やかさ
知性派の上にそんな恐ろしい思いまでしている式部さんは、清少納言さんみたいにキャピキャピ感溢れる書き方はしていませんが、それでも、
殿上人の名対面と滝口の宿直奏しのことを、源氏の縋り付きたいような想念としてですが、わざわざ書いてるのはやっぱり、式部さんも名対面の華やかさが好きだったんじゃないかなと思ってしまいます。
バッキンガム宮殿の衛兵交代式を見る楽しさのような。
なにがしの院での惟光が来るまでの滝口の描き方にも、藁にも縋る感があるにしても、何かかっこいい!💕的な感情が含まれている気がしてしまいます。
眞斗通つぐ美