[創作]大学生男女の会話
「人生苦なりについて、どう思う?」
その女の子は問う。
男は答える。
「人生苦なりは努力だね。努力したら苦なりになる。努力に目覚めてなければ、それは享楽になるよ。」
「享楽か、つまりは出会いということね。」
「うん。享楽は出会いで、出会いは痛みの感情に薄いことだ。痛みの感情に薄いということは、人生が苦なりではないということだ。」
「分かる、もし本当にその人が苦しんでいるのだとしたら、他の人には謙虚になるものね。」
「苦なりは難しいんだ。誰もがなれるわけではない。お釈迦様がそれを説いたことの威厳もそこにある。飄々とお釈迦様は表情を変えない、と聞くけれど、それはその厳然たる人生の実相から来る。」
「苦しむことも才能なのね。」
「極めて才能だね。」
男は、続けて話す。
「享楽の行き着く先は、世代間との隔絶だよ。世代間との隔絶とは何か、それは【影響力を得ないこと】だ。」
「それってどういうこと?」
「つまり享楽の行き着く先は頼れるのが家族だけになるという酷い事実だよ。最も、それさえなければひどいものだがね。また影響力というのは、人の心に残ることさ。つまり権威ではない。権威ではなく、人の心に残るというその残像だよ。」
「なるほど、私にはあなたのことも忘れられるようには思えないわ。」
「それが世代間との繋がりだ。この享楽の先には世代間との隔絶が起き、その先に頼れるのが身内だけになるという事象を、先人は【花咲いて花しぼむ】と表現した。」
「そう思えば彼ら彼女に恐れることはなさそうね。」
「実際危害を加えられること以外はそうだね。だから【花咲いて花しぼむ】は古今東西の変わらぬ真実だ。そして世代間との隔絶、これを非世代性(ひせだいせい)と言うけれど、この非世代性の伝播が"世代"しているのが、その古今東西性になるんだよ。」
「ちょっと難しくなってきた。」
「つまりは本質がないという点で、すべては同じということなんだ。」
「シンプルで恐ろしく、そして素晴らしいことね。」
「それを先人は【すべては嘘の世の中】と言った。またこれを感受するということは、同時に人間の尊厳を理解したということだ。誤解があるのはこの言葉がペシミズムのように聞こえている人がいるみたいだけど、これは喜びからくる言葉なんだ。」
「それは私も体験してみて分かったわ。」
「通底する非世代性のことが分かれば、時として社会からの疎外感に悩むこともないんだ。心理学や哲学の尊厳はこういうところにあるんだよ。」
「若いうちに知れたことは、幸運なことね。」
「まったくもって。」