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俺の上司 1589文字#青ブラ文学部

「は〜ぁ、忙しいのにアンニュイ…」

「そこは普通に『退屈』って言いましょうよ」

「え〜?退屈なんて言葉が退屈だわ」

「…………」

俺の上司である『間中 麻耶(まなか まや)』さん。

仕事は卒なくこなすし、コミュニケーションとか高くて凄いな〜とは思っているものの、この退屈をアンニュイと言ってくるボキャブラリーに、俺は最近感心している。

同期には『やり辛くね〜の?』なんて半笑いで言われてしまうが、やり辛くはない。

強いて言えば、間中さんの独特の言い回しにツッコミを入れる腕が上がっている気がしているし、間中さんは誰に対してもフラットだから一緒に居ても、上司、部下の関係でも凄く楽だ。


「忙しいのにアンニュイ。


すげー面白いボキャブラリーだよな

『間中さん語録』とか言って本書いたら、爆発的に売れたりしてな…」

休憩中。
自販機で買ったコーヒー片手に、休憩室の窓から外を眺め、独り言を言っている。

休憩室には俺一人しか居ない。

ここは静寂に包まれ、自分の話した声だけが無音の空間に響いて、音は消えていく。

「……午後から外回りか。

間中さんの独特な言い回しを俺がフォローしないといけないのか…」

俺を間中さんと組ませた上司からは、間中さんの独特な言い回しを聞いたら、通常の言葉の道に戻して欲しいと頼まれてしまっている。

何で俺に頼むんだ?

と思ったものの、暫くすればそんな言い回しには慣れ、今や上司である間中さんにツッコミを入れられるにまでなった。

「ま。後輩のツッコミに怒らず、真面目に対応してくる間中さんだから、俺はやっていけてるんだろうな」

飲みかけていた珈琲をすべて飲み干し、アルミ缶専用のゴミ箱へ捨てると、俺は休憩所を後にした。

休憩から戻ると、間中さんは外回りの為の準備をしていた。

「あ。おかえりなさい」

「ただいま戻りました」

いつもしている会話なのに、いつもよりも間中さんの声は低く、落ち着いた声をしていた。

「いつもより早めにお昼に入って、ご飯食べてからいきましょうね」

「はい。わかりました」

間中さんは、まだ外回りの準備をしている。

「間中さん」

「うん?何?」

「……もしかして、緊張してます?」

俺が言うと、ピキンッという漫画の効果音が書かれていそうな位、間中さんの動きがギコッとした。

どうやら当たった様だ。

「………どうしてわかったの?」

「……何となく、です。いつもより声が落ち着いていた気がしたんで」

そう俺が言った後、間中さんは準備の為に下げていた目線を、こちらに向けてきた。

……なんか、心臓がはねた。

「……わかりやすかった?私……」

「え?」

「緊張してるの、バレない様にしてたの。
今日行く所は、うちの会社のお得意様だし、粗相があってはいけないでしょ?

皆から言われる私、独特の言い回しが出ないように気を付けよう。て思ってたの」

そう言うと、間中さんは「お昼行こうか」と言って準備を完了させ、颯爽とお昼へ行ってしまった。

俺も続いてお昼に向かい、近くにあるうどん屋さんで軽く済ませてから、俺も資料を準備し、準備している間に間中さんもお昼から帰ってきて、外回りへ行く為二人で会社を出た。

間中さんは、さっきよりも緊張していそうだ。

「……間中さん」

「なに?」

「もし、間中さんが間中さん独特の言い回しをしても、俺がちゃんとフォローしますから。

……だから、少しでも…緊張…和らげて下さい

まだ、頼りないかもしれませんが…」

「………赤崎(あかさき)君…」

間中さんは少し顔を赤らめ、泣きそうな顔をしたものの、その後すぐに笑顔になって「よし!行こう!you and me!!」と大きい声で言った。

周りからの視線を少し感じ、恥ずかしくなったが、間中さんの緊張を少しでも解けたのなら、それは嬉しい。

嬉しいと思っているのに、心臓がドキドキしている自分に『俺も緊張してんのか?』なんて思いながら、いつも通り、俺は間中さんにツッコミを入れた。


〜終わり〜

こちらの企画に参加させて頂きました:⁠-⁠)

山根あきらさん
恋になるのか、ならないのか?そんな雰囲気の物語にしてみました。よろしくお願いします(^^)

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