豆腐の人(エッセイ)
家の近くにあるスーパー。
値段もお手頃な価格のモノが多く、とてもお世話になっているスーパーなのだが、私には個人的に『豆腐の人』と、呼んでいる一人の男性が居る。
30代くらいのその男性は、私と同じ朝早くにスーパーに来店して食材を購入している人なのだが、買うもの1つ1つの量が多いので、もしかしたら飲食店を経営されているのかもしれない。
そうじゃなくても「食」に関わるお仕事をしているか、大家族なのか、職場で賄を作っているのか。などなど、色々な想像をしてしまうが、何故私が「豆腐の人」と呼び始めたのかと言えば、ご想像の通り。
男性は、スーパーの売り場に出ている豆腐(絹豆腐)を全てを掻っ攫おうとしているかの如く、絹豆腐を情け容赦なく次から次へと自分の買い物カゴへ放っていくのだ。
私も、たまには豆腐を買う事がある。
そんな時に男性と出会ってしまうと大変。
「と、豆腐が掻っ攫われるっ!」
全ての銘柄の豆腐。全てを掻っ攫っていく訳では無いのだが、男性が買っていくのは量も多くて値段も安い豆腐。
私だって、その豆腐が買いたいっ!
男性を見つけたら、私は他のモノを買うより先に豆腐売り場へ一直線。
まだ沢山ある絹豆腐を1丁手に取り、心の中で『豆腐、無事ゲット!』なんて思いながら、それから私はゆっくり野菜やお肉を見て買い物をするようになった。
他のスーパーで豆腐を買う様になってから、男性が買う前にっ!とアワアワする必要はなくなったものの、今でもその男性を見かけると、男性がカートの下に置いているカゴの中には、たっくさん!の絹豆腐がギッチギチに入っている。
そんなギッチギチ入っている絹豆腐を見る度に「豆腐の人、今日もいっぱい」なんて思う。
私の中のささやかなアワアワは無くなったが、男性の姿を見る度に、私は心の中で言うと思う。
『あ。豆腐の人だ。』って。
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