【第9回】再販制度は市場経済として不健全 値段は需給バランスに従うべきだ
「再販売価格維持制度」という制度を聞いたことがあるだろうか。モノの値段は通常、需要と供給のバランスによって決まる。値段が一定になるのは、完全競争のように競合他社との均衡であるが、実はシステム的に値段が一定に保たれている分野がある。それが再販制度だ。
再販制度が適用されているのは、書籍、新聞、雑誌、音楽CDなどだ。どれも身近な商品だが、これらの値段はどこの店でも同じである。要するに、再販制度というのは値段を変えずに売るという制度である。このように、あらかじめ値段が決まっていることを「価格カルテル」という。
この制度的な力を介して、価格が維持される状況を作り出すというのは、市場経済としては不健全だ。
例えば、書籍はどこへ行っても同じ定価で売られているため、その供給曲線Sは、水平になる。売る側の誰に値段を聞いても、同じ額を答えるということだ。
実際に本屋に書籍が並んだ時、需要曲線がDであれば、一定量売れる。しかし、その書籍を読みたいという人がとても少なく、D'だとしたら、SとD'は全くかすりもしない。これは、定価では1冊も売れないということを意味している。
では、書籍も他の商品と同様に値段が変動するとしたらどうなるか。供給曲線はS'になり、定価で売れないので値下げするという選択肢が生まれた本屋は値下げをする。こうして、値段をPからP’に下げると、Q'程度の数量は売れる可能性が出てくるのだ。
つまり、再販制度で値段を一定に保っていることは、値下げをしたら売れるかもしれない分を売り逃しているということになる。
再販制度がなければ、D''のように需要曲線が右シフトするほど、その書籍の値段は上昇する。大量に増刷して過剰供給となり、価格上昇の足を引っ張らないように増産ペースを見極めることができれば、S''とD''が交わるポイントはP''とQ''となる。
つまり、その書籍の値段は上昇し、その書籍から得られる利益は、再販制度が適用されている場合より大きくなる可能性もある。
こうした商品としての柔軟性を出すためにも、再販制度は撤廃したほうがいい。メーカーや小売店にとっても、需給バランスに従って値段を変えられた方が、利益は大きくなるのだ。
再販制度がある理由として、日本書籍出版協会(JBPA)は「読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくため」「自国の文化水準を維持するため」としているが、商品の価値は人の手に渡ってこそ伝わるものなので、その機会を失わせる再販制度はやはりおかしい。
もっとも、書籍も、電子書籍には再販制度が適用されておらず、Amazonなどのネット小売店では値引きされている。音楽でも、CDを買うより、配信サイトでダウンロードしたり、月額料金を支払えば無制限に楽曲が楽しめる。
こうした流れもあるので、再販制度は将来的になくなっていくと見ていいだろう。