【長編】とてつもない質量で恋が落ちてきた・第16話 ずっと一緒にいたい人 ①
眠れない。ベッドに横になり目を閉じても、眠りは訪れてくれない。目覚まし時計を見たら、もう夜中の一時をすぎている。会社があるなら、なんとか寝ようとするところだけど、明日というか、今日はもう土曜日。眠れないなら、朝まで起きていたって構わない。
諦めて起き上がり電気をつける。一気に視界が明るくなり軽く吐息をついた。大介さんともっと一緒にいたかったけど、忙しい彼を引き留めるわけにはいかない。それにわたしのなかにあるこの、モヤモヤっとした気分を彼にぶつけたりしたら。きっととんでもなく自己嫌悪してしまうから。
あえてさらりと。今日は早く帰りますねって、すごく頑張ってそう言った。
『わかった。ありがとう』
優しく目を細めて、わたしを労わるようにそう言われたら、もう、なにも言えなくなった。タクシーで家まで送ってくれて、マンション前についたときも。寄っていってもいい? そんな言葉をほんの少しだけ、どこかで期待していたけれど。
『じゃあまたね。連絡するから』
わたしの頭をくしゃりとかき混ぜて、やっぱりそのまま帰ってしまった。期待しているほうがおかしいってわかってはいるけれど、がっかりするような、心許ないような、そんな気持ちになるのを止めることができなかった。
大介さんと会ったあと、いつもすぐに送っているメッセージだって、今日はなかなか書けなかった。迷って迷って。一時間くらいかけて、ようやく送信。
(今日はありがとうございました。お肉、美味しかったです。シンガポール、気をつけていってきてくださいね)
余計な感情がはみ出したりしないよう、気をつけて書いたメッセージ。どこを一時間も考えたんだかわからない、ごくシンプルな文面。それでもなんとか送信して、ホッとため息をついたのも束の間。普段はすぐに返信がくるのに、今夜に限っては既読すらつかなかった。
電話をしてみようか。何度もそう思ったけれど、スマホの上で指先がさまよったあと、やっぱり通話ボタンを押すことができないでいた。
普段のように大介さんに対して積極的になれないのは、彼がいつもとはちょっと違ったような気がしたから。
瞳がわたしを通り抜け、遠いところを見ていた気がして……。
ううん。わたしが大介さんのなかに、勝手にあゆみさんの気配を感じてしまっただけなんだと首を振る。
「気にしすぎ」
掠れた声が、まず頭のなかで反響したあと、しんとした寝室に響いた。大介さんを信用していないわけじゃない。むしろ彼がまっすぐで優しい人だから。わたしの知らない過去が、現在と繋がったら、ふたりをまた結びつけてしまうかもしれない。
十年まえにあゆみさんと別れたあと、大介さんは誰ともつきあってこなかった。それくらい大介さんが真剣に愛した人なのだから。
そんな考えが、ずっとアタマの中でぐるぐるしていて、自分で自分を落ち着かない気分にさせている。