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池に放した亀の名前を呼んだら、沢山の子亀を連れて泳いできてくれた

小学生の頃、道路を横断していた亀を拾った。車が危ないので、家に連れて帰る。母が動物園に電話したりして飼育法を調べた。インターネットが普及する前の時代だ。いつの間にか「カメさん」と呼ぶとこっちに来るようになった。それが名前になり、家族の一員に。

私はカメさんを眺めているのが好きだった。石をひとつずつ頭で押して、水槽の片側から反対側へ運ぶ。全て運び終えると、今度は逆方向に再び全ての石をひとつずつ戻す。小さな水槽の中でも、ちゃんと毎日働いていた。退屈だ、なんて言わない。禅の心を教えてもらったし、癒された。そして、「カメさーん」と呼ぶと、餌を貰いに泳いで来て、首を長く伸ばした。7年位一緒に住んだだろうか。カメさんは毎日同じ作業を繰り返しながら、少しずつ大きくなっていった。冬以外は。長い冬眠中は、部屋の片隅でずーっと寝ていた。生きているか分からない位じーっと。

私達が海外に引っ越してから暫くして、叔父が同種の亀がいっぱい住む池まで新幹線の距離を連れて行き、安全なその池に逃してくれた。初めて自然の中で泳ぐ姿は見れなかったが、長い間水槽で飼っていて申し訳無かったので、大切な家族の自由を喜んだ。

数年後だっただろうか。「カメさーん」と呼びながら大きな池の周りを歩いて探すと、こちらに真っ直ぐ泳いでくるクサガメがいた。池から岩に上がり、出来るだけ近づこうと頑張ってくれる。以前水槽で割れてしまった同じ爪が割れていたから、私達と一緒に育った亀だと分かった。感無量で頭を撫でた。新しい家族も泳いで付いてくる。複数の子亀達。カメさん、こんなに幸せになっていたんだ!

それから20年程経ち、今度は母がひとりで池を訪ねた。同じように呼びながら池の周りを歩いて探すと、カメさんは広い池をスイスイ泳いで近くの岩に登り、できるだけ近づこうとする。母は私に見せようと、携帯を片手に録画しながら、カメさんに話しかけてくれた。以前と変わらない元気な姿に、再び涙が出る。カメさんもきっと、私達を家族だと記憶してくれている。それがまた嬉しかった。

あの時、東京の道で巡り会えて良かったね。

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