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襟裳の風#3

 秋が深まったある雨降りの日、母が裁縫をしながら歌を歌っていた記憶があります。
 その時の私の年齢は多分三歳ぐらいだったでしょうか。
 傍で昼寝をしながら虚ろに聞く鼻歌に雨音が心地よい伴奏となり、その頃の私では、まだ哀愁という言葉は見出せなかったけれども、そのような歌声でした。
 多少ビブラートを効かせ、高音の透き通る声で、悲しい感情の入り混じった声だったと思い出されます。

 長女だった母は小さい頃から、奉公に出されたようです。
 学校にも満足に行くことが出来ず、奉公先で子供の世話係りをしたとのこと。
 子供を背負い小学校の教室の窓外から、授業を聞いていたと言っていました。たいそう苦労したようです。母の家系は複雑で、時々当時の話をしてくれましたが、聞いた後から忘れました。

 母がまだ十八の恥らしい年頃に、庶野の鰊場で若い男性と知り合い、そして結婚したそうです。私の父親です。
 なぜかその時の詳しい話は、私の前ではしませんでした。母が死んだあと、暫くして実姉からその事情を聴くこととなりましたが....…。


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