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大学教員の冬休み

いよいよ新年度

今日から新年度が始まりました。
多くの大学で入学式が行われました。

新入生の皆さん、おめでとうございます。
私の勤務する大学キャンパスも,初々しい新入生であふれていました。

そんな祝いの日に。今回は
「大学の先生って授業期間じゃない時は何してるの??」
という,よく聞かれる疑問について独白します。

そもそもの話

私がここでつぶやくお話は2学期制の大学の場合です。

2学期制の大学は,夏季(8~9月)と春季(2~3月)に長期休みが入ります。

まず,この長期休暇は学生にとっての休みであって,教員は休みではありません。(ここ重要)

世の中の人たち(外)からみれば,教員の仕事=授業というイメージがあるようです。

「大学の夏休み・冬休み」は,授業期間にできない仕事をやる期間です。
むしろこの期間にしかできないたくさんのことがあります。
かえって多忙です。

少し詳しくいえば,自分の仕事を「教育」だと捉えている教員と,「研究」だと捉える教員とで,この期間の過ごし方は異なります。
私はどちらにも比重をおく立場ですので,どちらの作業にも追われます。

いずれにしても一般には「見えにくい」ものと思います。
思いつく順に,できるだけ簡単に述べてみます。

後期の定期試験・成績評価

1月は後期授業や補講があり,定期試験があります。定期試験は作問・採点だけでなく,試験監督のノルマがあります。共通試験の監督業務も入ります。

大学の講義人数は高校までとは比較にならないほど多いです。
少人数であれば数十名ですが,大講義になると,例えば「〇〇心理学」という単一科目に対して複数クラスが設定され,計300~500名に上るところもあります。
その採点作業は1日で済むものではありません。

また,現在の(標準的な)大学では,定期試験偏重の成績評価を避ける傾向にありますので,定期試験とは別に平常点(レポート等)を加味しながら総合的に評価することになります。

本当に単位を認定してよいのかどうか。妥当な評価か。
大学人の責任との葛藤に「ウーン・・・」
孤独にうなる期間です。

来年度の時間割作成

定期試験が終わると来年度の時間割作成があります。
私の大学はかなり規模の大きい大学ですので,さまざまな調整と譲歩が必要です。

まずは同じ学科内で。次に学部内で。そして学部間で。
さまざまな駆け引きがあり,特に若手教員ほどその調整に奔走することになります。(ここでは述べませんが,教務・事務方の負担もすさまじいものです)

この一見地味な作業も,神経が結構すり減ります。

入学試験(前期日程・後期日程)

2月になると入試です。
この頃になると大学キャンパスから在校生の姿はなくなり,閑散とします。

入試監督では1日中,立ちっぱなしです。採点枚数は何百枚に上ります。複数教員で間違いのないように協力しながらの作業です。

書き出すとキリがありませんけれど,年中のなかで肉体労働が一番多い時期かもしれません。(もちろん90分・100分の授業を数コマ担当するのも,かなりの肉体労働です)

在校生,新入生の履修登録の関係行事

入学試験と並行して行われるのが,4月からの新年度授業に向けた教務的な準備です。
在校生への履修指導や新入生ガイダンスなど,こまごまとした作業に追われます。

あとに書きますが,この期間は「授業期間にできないことをする期間」ですので,研究のために大学を不在にする先生も多数いらっしゃいます。
必要な打合せが対面でできずに齟齬が起きたり,うまくいかなかったりすることもしばしばです。

これは学科・学部内の教員・事務のコミュニケーション力によるところが大きいです。私の所属する学科は,周囲と比べると,相当スムーズに進んでいる方だと感じます。

ここまでが,いわゆる「ノルマ」としてぱっと思いつくことです。
もちろん,その間にも細々とした打合せや教授会,FD関係の研修なども課されますが省略しました。

そして以下に書くことが,「ノルマ」ではない,しかし本来的にこの期間にやりたいことです。

研究!

とにもかくにも「研究」です。
はっきり言って,授業期間内にまとまった実験や調査をする時間的余裕はまったくありません。

少なくとも,社会科学や自然科学の学問領域では,実験・調査をしてデータ収集をし,分析・報告することなしに,研究業績を上げることはできません。いつも研究の時間を確保できないのは,大変に悩ましい問題です。

研究,実は大学教員にとって「本務」なんですけどね。

わざわざ「実は」と書いたのは,授業期間中は本当に皮肉を言いたいくらいに時間がとれないんです。

現代の大学は昔の中学・高校のように手取り足取り・面倒見のよさを求められるところがあると思っています。
特に私学の場合,その傾向が顕著です。

とにかく授業期間外にこそ研究を進めたいんです。

「よし,今年こそはこれと,あれをやるぞ!!」と定期試験後にはいつも気持ちを新たにします。

しかしこれがうまくいかない。
本当にもどかしい。そんな思いを毎年のようにしています。

今年もそうでした。

ちなみに,コロナ前は2~3月のまとまった期間にしか行けない海外調査に出かけたり,他大学の研究仲間との共同研究を進めたりしていました。それをやるのもやっとの思いで,日程を確保している感じでしたが。

授業準備

研究と並行して行うのが,来年度の授業準備です。

私は授業も大切にしたいので,自分の知識や経験をアップデートしなければと思っています。
毎年,同じ講義ノートを使って同じ講義をする,という昔ながらのスタイルは,私はできるだけとりたくありません。

せっかくなら,できるだけ身近な学問として心理学をとらえて欲しい。
自分の成長や人間関係をブラッシュアップするために使って欲しい。
そんなことを願いながら授業を作っています。

特に心理学という学問は社会の変化とともに目まぐるしく変化します。
社会で生じることは私たち人間に大きな影響を及ぼします。

例えばコロナやウクライナ情勢は私たちの健康や安全感を大きく脅かし続けています。コロナにより対人関係の在り方は非対面でも「割とアリ」になりました。SNSとリアルの関係はますます使い分けにくい時代になっています。若者の恋愛観や消費観も大きく変わりました。恋愛・消費をしない若者も増えています。パートナーは異性とは限りません。世代間ギャップも広がっています。

いくつか挙げましたが,そんなこんなの社会状況やそれにまつわる学問的知識を,少しくらいアップデートして授業の小話にしたいのです。

それにしても「難しいことをわかりやすく話す」というのは本当に難しいことです。1のことをさらりとわかりやすく伝えるには10のインプットが必要です。

でも時間がない(涙)

もちろん,これは私の能力的な問題も大きいことです。ただ,それを差し引いても大学教員は相当なマネジメント力を要求されると思います。

その間の学生指導

最後に,書く必要はないかなと思いつつ。
年中行っているのが学生指導です。学部と大学院とあります。

学部生についてのみ書きますと,主に大学院進学希望者や就職相談など。
今年も複数の研究計画書を添削しました。進学か就職かに伴う悩みを一緒に考えました。
一人につき一時間くらいはかけます。大学院の指導はもっとかかります。

また,ゼミ生を送り出す行事をしました。
これは「ノルマ」ではなく,本当に気持ちからやっていることですので,書くまでもないことですが。事前相談や事後のもろもろ等をあわせて,かなりの時間を割くことになります。

敎育は,すぐに成果のわかるものではないので,ここでかけた時間がどのくらい意義のあることなのか。
それがわかるのは5年から10年先だと思っています。

大学教員,やっぱりセルフマネジメントが大事。

おわりに

今回は,一般の人から言われる一言
「大学の先生って授業期間じゃない時は何してるの??」
について,思うところをつぶやきました。

言うまでもなく,ここで書いたことがすべての大学教員に当てはまるわけではありません。
自分の研究だけをメインにして,敎育や校務から一線を引いてこの時期を過ごす先生方も(割と)いらっしゃいます。

価値観の問題,自分の仕事のマネジメント次第です。
一般企業とは理屈が全然違う。それが大学です。

いずれにしても,私は今年も見事に敗北感を味わいました(笑)
それなりに頑張った! そう自分を慰めつつ。

今年度も精進します。

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