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イカサマ #5(6話完結)
師走の大勝負助蔵の来し方はふくには見当もつかない。
無宿者と言われればそうだろうと思うし、どこぞの大店の跡取りと聞いても得心する。飄々とした様子が助蔵を何者にも見せるのだ。
お互いをよく知らぬまま二人は月に一度か二度、賭場へ繰り出した。ふくを伴えば必ず勝てるが、この頻度を助蔵は良しとしているようだった。
そうしているうちに季節は移り、暦は師走を迎えた。
壺振りと一対一の三番勝負を提案されたのは意外
イカサマ #4(6話完結)
初陣ふくの初陣は料理茶屋の二階の広間だった。
客の顔ぶれは職人や商人が多く、想像していたような無頼漢の巣窟でなかったことに正直にいえば肩透かしを食った。
それでもふくは目立たぬよう静かに座り、壺振りの手元をそれとなく伺い、半なら一回、丁なら二回、助蔵の腕に触れ合図とした。
賽子の目は毎度ふくの見立てどおりだったが、助蔵は間々外した。
客が増えるにつれ熱気も盆ござの上の駒札も膨れ上がり、その頃合いで
イカサマ #3(6話完結)
元壺振りとの対決
表通りから木戸をくぐり路地へ入る。
向かい合う棟割長屋の間を進み裏側へまわると、ただでさえ湿気ていた空気が淀み、足元はぬかるみ、これでは店子も苦労するだろうと顔を上げれば、そこは住居であることを放棄したような荒れっぷり。
男は立てかけられた板——これが引き戸であった——を横にずらして声をかけた。
「忠さん、久しぶり」
「……誰だあ?」
なかには白髪を肩まで伸ばした痩身の老人が、
イカサマ #2(6話完結)
出会い
助蔵との出会いは半年ほどさかのぼる。
この日ふくは、隅田川にかかる橋の袂で武家屋敷を眺めていた。ここの中間部屋で賭場が開かれていることは誰もが知っており、見張っていたといってもいい。
屋敷から出てくる者を観察していると、裸同然に尻切れ半纏を引っかけた中年男が逃げるように去っていった。なるほどあれが身ぐるみ剝がされるということかと目で追っていたところ、ひとりの若い男に目が止まった。
彼を見
イカサマ #1(6話完結)
プロローグ
壺の中の賽子が盆ござの上に落ち着いた。
賭場の進行役である中盆が「張った、張った」と唸るような声で客を煽る。
ふくが『丁』に駒札を張ると、まわりの客が次々と『半』に廻った。なかには、ふくの顔を覗きこみ、にやにやと笑う者もいる。中盆が「丁とないか丁とないか」と誘いをかけ、ようやく丁半がそろった。
はたして壺振りが壺を持ち上げると、二六の丁。
「ふざけやがって」
『半』に張った客の一人が