家出



みんなが持ってないモノなんて欲しくないから

みんなと同じものが欲しかったよ




母のストレスをぶつける鷹が徐々に外れていく。


真冬でも上着無しに外に放り出され、
お金もないし行く場所もないし、
ドアの前で座っていると


「なんでどっか行かないの 普通行くでしょ」
と、周囲の目を気にした様に言う。


学校が休みの日、
お昼寝してたら突然ビンタで起こされ
「調子に乗るな」と言われキョトンとした。


学校から帰ってきてお腹が空いても
「ごはんは?」なんて言える筈もなく

冷蔵庫を開けることすら罪悪感がでるようになった。


「これ食べていい?」って聞くと無視。

戻して部屋に戻る。


不快にさせるなら食べないほうがまし
怒らせるならなにもしないほうがまし

水を飲む為に開ける冷蔵庫を開ける音さえも
プレッシャーになってた。

朝ごはん兼、買い弁のお金で
玄米ブランっていう健康機能食品を
ほぼ毎日、自分の部屋で食べていた。


ある日母が、Yと4人で旅行に行こうと言った。
弟は無関心そうにしていたが

私は嫌だった。


どうしても行きたくなかった。
何も楽しくないし、気持ち悪い。


「行きたくない‥。」

と一言いうと、
その日の夕食時、弟と私が席につき、

弟の前にはご飯が優しく置かれたが、
私のは上から落とされた。

何でこんな奴にご飯を食わせなきゃいけないんだよ。
って、
思ってたんだろうな。

ひしひしと痛いくらい伝わった。


「ごめんなさい、
もう行くから」


って言ったが無視。弟とあからさまに楽しそうに話して食事する。

美味しい?とか聞かれてたな。
弟はうん とかなんとかいって‥。



母親に、唯一ひとりの親に
そんな風にされるのはものすごく辛いんだよ。



すぐに私への機嫌は直してもらえなかったが、
旅行に行くことが決まった母は
きっとわくわくしていたんだろう。


そうだよな。

Yは、母親に感化されて気持ち悪くなってはいたものの、虐待的な事まではきっと許さなかった。


だから私だけ行かないってなったら、旅行プランは変更になる恐れもあった。



一度、Yがいる前で母親が私に「罰として」という名目で何かを制限したとき、
Yは「それは違う。」って一言いったんだよね。


母はYには大人しく従った。


内心どう思ってたのかは知らない。




まぁそれでもYのことは嫌いだったけど。




私はまともな生活、
ストレスを休める場所もない日々の中、
おかしくなってきていた。

ストレスで髪は抜けるわ、

母の帰宅のヒールの音で一瞬にして青ざめるわ、

罵倒の度に、脳の血管が切れそうだった。

むしろ切れてしまえばいと思った。


若いってすごいね

今だったら切れるんだろうか?


その時は切れそうなほどパンプアップしてる感覚があったのに
切れてはくれなかった。


毎日死にたいの中、初めてリストカットをした。


すぐ分かった。

こんなんじゃ、死ねない

って。

痛いし、こんなんじゃ死ねないし、
リストカットは人生でその一度きりだった。


リストカットって、
誰かに「助けて、わたしをみて」って

言ってるような気がする。

「この傷が頑張った証明なの」って。


私には助けてくれるはずの親ですらいないし、
周りに人もいなければ

むしろ
私は自分が被害者だとは思ってなかったのが大きな違いかもしれない。


自分が被害者だと確信できるまでには 
私が家出してからも何年も、相当の時間が掛かった。



死ねないから、やっぱり飛び降りがいいや‥


自宅のマンションから下を見る。

どう足を掛けたら飛べるかな‥。

やろうとするけど、小さな希望が邪魔をした。


幼児期は、幸せだった。

本当に


今とくらべたら死ぬ程、幸せだったから

出張とはいって出ていったが
父は会うたび私を抱きしめてくれてたし、

愛されてるような気がしたんだ。


また、愛されるかもしれない。



そう思うと、そんな未来を思うと、
死ねなかった。


飛べなかった



諦めて部屋に戻るのを繰り返すうち、
私は16になっていた

人間って、ちゃんと本能で生きようとするんですよ


年齢ってね、大きいんですよ、


よく火事場の馬鹿力なんていうけど、

人間には必要に応じて伸びる能力や

不必要だと下がっていく機能があるんですよ。


16頃の私は、それまでに弱りきっていた精神を跳ね返すかのように、

いきなり行動に出始めた。


それまでは行くところもないし、
大人になるまでの我慢だと思っていたけど、

本能が、このままじゃ本当に死んじゃうって、
なったんだろうね。


キャリーバッグにあるだけのお金と
服をつめて、繁華街に出た。

夜だった。
ギリギリのお金で安いラブホテルに1人で泊まった。






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