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2.5 4月1日(その6)4/1午前はえんえん職員会議①〜新職場でイキナリ電話を受けたら、取り方がわからず固まる〜

前回の話

摩耶が職員室へ入っていくと、南教務主幹が、
「職員室座席表にお名前ない方は、空いているところに適当にお掛けくださーい」
と声を張っていた。
ざわざわと会話が賑やかに続いている職員室の真ん中の通路を、なんとなく人の流れに乗って後ろの方へ向かう。空いていた席を見つけ、摩耶は荷物を置き座った。

すると、素早く、人影が近寄ってきた。
パーマの、小柄な女性だ。結構な高齢に見える。

「あのね、事務の人は、ここじゃないの。あっち」

と言って、女性は通路を挟んだ隣の机並びの、廊下寄りの席を指した。

「えーと、そうなんですね?」

「そうなの、そうなの!ホラ、会議中とかいつも電話が鳴ったら、事務の人って、すぐ電話に出ることになっているじゃない?

「……(ん?)」

「そうなのよ、この学校はそう決まっててね。だから電話に一番近い位置に、前の事務さんもその前の事務さんもずっと、座ってたのよ」

何か釈然としないものを感じながらも、なにせ新参者なのでそれを見せないように意識して、とにかく摩耶は言われた場所へ席を移るのだった。


【中の人の解説:電話対応業務が、学校事務職員が担当する業務であるなどとは、どこにも何にも書いていないし、(摩耶は知らないことだけど)過去にこの小学校で分掌的に決定された事実もない

実際のところ、摩耶の前任の中之森氏は、ただのボランティアで、できる範囲の協力として、極力受話器を上げていたに過ぎなかった。

摩耶の元に駆け寄った職員は、特別支援サポート員の積問 真夜つもといまよさんで、この学校に10年ほど勤める大ベテランだ。
彼女は実際のところ、電話を受けるのが大・大・大嫌いなので、いつも、誰か他者が電話を受けてくれるように願っているタイプだった。
なので、4月1日という不安定な日に、先に言っておこうと待ち構えていた

※特別支援教育に関わる人全員が、電話が嫌いという描写をしたい意図は全くありません。あくまでも、積問さん個人がそういう人というだけです。

義務制学校には、「やるべきこと」として確実に&日々のこととして存在していながらも、明確に校務分掌に落とし込まれていない(担当が誰なのかはっきりしない)、けれど、誰かがやらないことには回らない、的な「業務」が、かなりたくさんある。

これについては、後で、「学校のお仕事の、あいまい領域」として特集したい!】


女性に言われた席につき、とりあえずパソコンにLANケーブルをつなぎ、
(でも、ログインできないという残念さよ……)
と考えていたら、南主幹の進行で職員会議が始まった。

南「では最初に、校長先生から今年度の教育目標など、お話しいただきます」

校長「はい、改めましておはようございます。本校校長小比類こひるいにございます。
私からは、今年度の教育目標等々ですね、ちょっと長くなり恐縮ですが、旧年度中に市教委に届出いたしました、教育課程の……」

トゥルルルルルルルッ!!!!

(あっ、電話。)摩耶の目はレジュメの文面を追っていたが、ここで顔を上げる。

(やっぱり、私が?)、なんとなく、周囲から、見られているような気分になる。

トゥルルルルルルルッ!!!!

(しょうがないな……)、摩耶は椅子から立ち上がり、電話機に寄っていく。

あ。高校の電話機と違う!

気付いたが、もう取るしかない。

受話器を上げる。

言い慣れていないから、ゆっくり言おう。考えつつ、摩耶は声を発する。

「はい、……唱和杉しょうわすぎ小学校、わたくし、事務の邪馬と申します」

言えた。よかった。

しかし、相手から反応がない、と思うと

トゥルルルルルルルッ!!!!

3コール目の音が、職員室に響きわたってしまう。

誰か教員が小走りで来て、

「ココを押して出るんです」

と小声で摩耶に言い、点滅しているボタンを押してくれる。

その教員に目線で謝意を伝え、摩耶は再度、相手に応対する。
一見すました顔を作っているが、内心では、

(異動の洗礼受けまくりだなぁ……!)
と、凹みまくっていた。

電話機が違うってだけで、まともに電話に出ることもできなくて……、
早くも「今度の事務さん使えねー」って思われたかな。
わたしゃ泣きたい気分だよ……。

【中の人の解説:いや本当に異動って大変なのだよね……。

このシリーズを書く意図は、4月1日異動初日、日本のどこかの小中学校で、あるいは同時多発的に起こっているかもしれない出来事を可視化して、心の準備をしていただくとか、大変ですよと知っていただく、その目的で書いております!】

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