ツイートとよばれたいくつかのことば
自序
ツイッターは消えてしまった。そして、もしかしたら、ぼくもいつか消えるのかもしれない。
いや、ぼくたちはもう消えつつある。いまも。そういうしずかな滅びもいいけれど、ぼくは残念ながら、花火をあげながら滅びたい。
だから、ツイッターに書いた一部の文を、残しておこうと思う。二千年後には評価されるかもしれない。今されるかもしれない。
のすたるじぁ
はじまり
とりはなくのをやめて、ぼくはゆうぐれの空を見上げる
火星のようなさみしさのはげしい風は、ぼくたちをよこなぐりにして、オレンジいろにそめあげ、あおい小とりはいきもたえだえ、ぼくの手元で震えてしんだ。
幻影
私は幻影をつかむ
幻影は少し微笑んで私の手から離れてゆく
少しうれしい、幻影を掴めたのだから
しかし幻影の手触りは、だんだんと消えてゆく
もう一度、私は幻影を掴んだ!
今度は離さまいと誓う、私は幻影の手を掴んでどこまでも駆けていく!!
ふと、自分の手を見る
私は私の手を握っていた
南アメリカ麦わらぼうし
陰影濃ゆい夏の終わりの陽射しを浴びていると、図式化されすぎている、縁側から眺める向日葵畑と白いワンピースの似合う、笑顔が真夏の太陽のように眩しい少女のもとにふらりと行きたくなってしまう
僕と少女しかその世界にはいないのに、セミや風音でさえ世界の一員としてみなされる、エルドラドへと
よの論
健康であることが不健康になってしまった現代の社会で、僕はありもしないのにそこにあったなにかをずっと指さしてもだえている
よるの装甲
夜の海をみにいこうかな
と思った僕は、なかなか外に出る気もしない。
海にうつる月明かり。波がテトラポットに打ちつけて、心地よい音を奏でる。
僕はそれを堤防の上で座って見ている。
全体的に青白さを帯びたその景色は、エモーショナルという言葉の鎧を着飾って、僕の脳に陳腐な景色を見せてくる
のろい
雰囲気という呪いにかけられている
すべてを嘲ってきた人生の終着が、陳腐で空虚な「雰囲気」ならば、やっぱりもういやだ
夜のさざ波、夕暮れ、ひぐらしの鳴き声、天気雨、虹、入道雲、用水路、くらげ、喫茶店、ひまわり、画質の悪いビデオ、セピアカラー、ピアノ、ジャズ、夜景、扇風機、花火
北を
北を見ている
いや、むかしそこに富士山があったはずの方角をみている
むかしは富士山がそこにあった
いまは、多少の明るみを持った薄灰色の空がある
――進歩?
これを進歩というには、あまりに懐郷病に罹りすぎている
私の旅の同伴者はよき友人だが、よき師ではない
そして私はよき生徒でも友でもない
なつの終わり
今、夏休み最後の日の気分だ。課題も終わっていないままに、だらっと徹夜したあの、ありふれた夏
時計の音さえコチコチ聞こえるように、なにかに追われ、焦燥を感じている
セミの鳴き声はいつの間にかしなくなって、ああ、終わったと
そして永遠に終わらないとも思った
でもね この一瞬は終わるの
怖い?
はいいろレンブラント光線
ひみつの花園
花園を見せて、と花園の持主に処女がねだる
どうも困って差し出す花園は、奇形の花が萎れてならぶ貧相なもの
しかし、花園の持主にはただ一つ、ひそかに誇っている小さな青い花がある
処女はその青い花を少し見つめてひと言
これもだめ
花園の持主は、処女が去ったあと、青い花を切って捨ててしまった
桃源郷
久しぶり 君を小説の題材にしたくてね
なんてウソさ、きみに会いたかったんだ
君以外はすべて小説の題材にしてやるよ、なんてね、ロマンチック過ぎたかな、どうもキザだね
まあ、ぼくの小説を読んでくれよ、おもしろくないかもしれないけど
これでも頑張ってんだぜ、わかってくれよ
燈籠の少女
少女は私に問う
なにをしているの?
答えに窮した私は、少女に曖昧な回答を与える
少女は不満気な顔をでこちらの瞳を見つめる
私は逃げるように視線を逸らすが、少女の瞳の色は私の脳に焼きついて離れない
瞳の色が世界を支配する、瞳の色をした月、瞳の色をした木、瞳の色をした灯り
この物語を○○に捧げる
「え!? これ私のために書いてくれたの!?」
「そうさ。面白くないかもだけど、読んでほしい」
「嬉しい! 大切に読むね!」
「うん」
「……ふふ」
「どうしたの?」
「こんなことやっても、貴方の精神の矛盾はどうにもならないよ?」
「……」
「わかってるでしょ?」
あるこえ
――あなたは彼女を作らないのか
ある声は尋ねた
私は少し笑って黙った
――作る気がないだけか
声の出した一般的な結論に対しても、私はまた無言でいた
私は声が聴こえなくなると同時に、様々なことに思いを巡らせた。
環境、遺伝、性格、そしてある悪夢の内容を……
あまおとたれる
雨。公園。煙草。私が小馬鹿にしていた風景の主役に、私はなっていた。
待つでもなく、なにかを待っている。
灰になる時間。誰もいない公園をただ眺める。
ふと私の目の前に、傘をさしたセーラー服の少女が現れた。
少女はこの公園の主役を一瞥し、去ってゆく。
私はいよいよ、消えてしまいたくなった。
時シック
僕は君と旅をしている
ファミレスだらけの国道を歩いている
無言のうちに二人の歩く速度は速くなってゆく
いつかは僕もあの枯野を駆けることになるのだろうか。君と二人、たった二人で
ただ今は、国道を歩く
独唱夢唄
たたかいのすえに
私は公園の木を眺めている
私はその木に「美しい」といった
たちまちその木は揺れだした。
その様子はまるで、別れ際になって笑顔で手をふる色白の処女に思えた
その木を、その白い木をよく見ると、先にはあの美しいやかましさの蝉が、あの蝉がいる!
蝉。私はその蝉に「みにくい」といった
蝉は鳴いている。なんのために?
それはただ発情の発作、尻を振って音を出す蝉の、機械的な生物さは!
木は、白い木は処女だろうか?
それとも発情した蝉に……
――木は木に見えた。蝉は蝉に見えた。私の敗北である。
頬を撫でる風への敗北の詩を捧ぐ
われわれとは
我々はあなたにみられてはじめて私であり
私はあなたを見てはじめて我々になる
私はあなたがたに問う あなたがたは私に問う
私はあなたをみる あなたは私をみる
あなたがあってセカイがあり、私があってセカイがある
私は絶対の観測者であり、あなたが絶対の観測者でもある
砂も海も、あなたで私
つきはぼく、ぼくは月
ぼくも多少はね やさしい月のように生きたい、と思ったりする
月っていいもんだ
ただ、ぼくはざんねんなことに、月みたいなやさしい光かたはしてないんだよね
ぼくはしたをむくスイセン
川べには月明かりがみえて、僕は月になったり、川になったり、はたまたスイセンになったりする
すこし、さびしいね
散文的邂逅とばつ
生活の
重なる影が
つきまとい
逃げに逃げても
つきつはなれつ
老人はそう言って、私に微笑んだ。彼の詠むこの歌と顔の意味がわかった頃には、その老人は砂のように消えていた。
そうして、私は
世のためと
叫び姿を
消すならば
どんなお花も
笑うのかしら
「君は芸術がわかるのかね」
さっぱりです、絵をみれば鼻くそをほじりたくなりますし、音楽を聴くと屁をこきたくもなります
「文や詩は?」
文も読んでるとどこか苦しくなるようです、詩なんかは文字が滑って五感に響きません
神様、これは私に対する罰ですか
「いや、私の罪だ」
……懴悔をありがとう
神の深い謝罪は、美しいものでした
私もこの神のようになりたい
懺悔のなにが「いい気なもの」なのか
この神は優しく弱い、こんな神様がいていいのかしら
と、ここは夢の中
昼は夜になり、私は起きると、一束の原稿が私の枕においてありました
私は、オッチョコチョイだと笑って原稿を破きました
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