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【小説】二人、江戸を翔ける! 7話目:荒覇馬儀④
■あらすじ
ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・凛を助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。今回は、ある謎の組織が絡むお話です。
■この話の主要人物
吉佐:元・同心で、過去に藤兵衛と凛に悪行を暴かれた。
太右衛門:元・薬種店『越後屋』の主人で、藤兵衛と凛に関わって以来落ち目になる。
■本文
一方その頃、前話で話題にのぼった吉佐と太右衛門は新屋敷で忙しく働いていた。そんな折、三名の訪問者が屋敷を訪れる。
彼らは白一色の鈴懸や手甲に脚絆、そして玉の結び目が所々にある結袈裟を首に掛けるなど、見た目は修験者そのものであった。
吉佐と太右衛門が出迎えると、彼らは中庭に横並びで立ち、大男が腕を組んで構える両脇を痩身の男と小柄な男が固めていた。
「あの~、それで私どもの屋敷へは、どのようなご用件でいらしたのでしょうか?」
太右衛門が恐る恐る尋ねると、大男がいきなり大声を張り上げた。
「お頼ぉみ、申すぅう!」
あまりの声の大きさに、吉佐は耳がキ~~ンと鳴った。
「我らはぁあ、主から頼まれぇえ、こちらにぃい、助っ人に来たのであぁる!」
大男はとにかく声が大きかった。たまりかねた太右衛門は思わず手で耳を塞ぎ、続きを促す。
「あ、主とは?」
「これをぉお、読めばぁあ、わかるのでぇあある!!」
男は懐から手紙を取り出して太右衛門の眼前に突き出す。太右衛門はおずおずと受け取ると、表に援助を請うた組織の印が刻まれているのを見てとった。
太右衛門は、急いで封を切って読み始める。
「・・・何て書いてあるんだ?」
「彼らは用心棒なんだそうです。ここを重要な拠点とすべく、彼らを派遣したのだそうです。彼ら以外にも様々な物資も運び込むと書いてあります。・・・つまり、私たちは組織に認められたって事ですよ!」
吉佐の問いに、太右衛門は満面の笑みを浮かべて答えた。
「認められた、ねえ・・・」
(利用されてるだけじゃねえのか? ・・・もっとも、うちらも利用してるんだがよ)
太右衛門のはしゃぎぶりとは対照的に、吉佐は素直に喜ばなかった。意志が伝わったのがわかると、大男がまたしても大声を張り上げる。
「その通ぉおり! 我らが来たからにはぁあ、安心であぁある! 錫杖の臨在ぃい!」
大男が声を張り上げ、手に持った錫杖をドンッと地面にたたきつける。
「棒使いの兵助!」
「素手の闘吉!」
すると、それに続いて両脇の二名も応えるように名乗りを上げ、終いには、
「「「我ら、『馬儀・斗吏尾』、見参!!!」」」
三人声を揃え、はたから見て恥ずかしくなる決めポーズを取った。
「・・・・・・(汗)」
「か、かっこいい・・・」
吉佐はかなり引いたが、太右衛門は横で目を輝かせる。
「我ら三名が揃えばぁあ、どんな奴らぁあも、イチコロよぉお!! のぉおう、兵助!」
「おうよ! 我らが力、見せてくれる!」
突然、臨在に呼びかけられた兵助と名乗った痩身の男が持っていた棒を振り回す。
「臨! 兵! 闘! 者! 皆! 珍! 歩古! 列! 在! 前!」
呪文めいた言葉を唱え、それが終わると、近くにある岩に向かって棒を振り上げた。
(お!? まさか、棒で岩を?)
吉佐が一瞬期待すると、兵助はしばらく岩を見下ろした後、棒を脇に抱え直し『くわっ!』と見栄を切った。
「流石よのぉお! 兵助! 歌舞伎役者を目指していただけぇあるわぁあ!」
このパフォーマンスに臨在が感嘆し、残りの闘吉という小男もうんうんと頷き、太右衛門は感激したのか拍手を送っていた。
だが、吉佐だけは冷静だった。
(・・・何かが違う。いや、違い過ぎるだろ! 『九字護身法』なら一文字多くねえか? しかも、『珍』のあと『ぽこ』って言ってたよな! おまけに、岩を砕こうとして無理そうだったから、見栄切ってごまかしたよな!?)
それでも、太右衛門には頼もしく映ったようだった。
「この三名が居てくれるなら、もう安心ですね! あの鬼たちが来ても大丈夫ですね!」
「あ、ああ・・・ そうだな」
目を輝かせて語る太右衛門に水を差すことが出来なかった吉佐は、適当な相槌を打ちつつも、
(ダメだ・・・ こいつらじゃあの『白光鬼』には絶対に勝てねえ。会わねえことを祈るしかねえ)
心の中では既に諦めていた。
「それでは我らは少し休ませてもらおう。奥儀を繰り出して、疲れたのでな」
とここで、先ほど棒術、というより棒芸を披露した兵助が口を開いた。
「え、ええ。構いませんよ。どうぞ、私がご案内します」
「そうか、すまんな。・・・ところで、我らが持つ秘薬を焚けば、たちどころに疲れが取れるのだ。せっかくだから、お主たちも一緒にどうだ? ついでに、我らの教義も教えようではないか」
小さな麻袋を見せながらの誘いを太右衛門は一も二もなく受けたが、吉佐はやんわりと断った。
「そうか、まあ無理にとは言わん。それならお主、我らが運んできた荷があるゆえ、あそこの蔵にでも上げておいてくれ」
「ああ、わかったぜ」
こうして三名は太右衛門の案内で、離れの屋敷へと向かっていった。
残った吉佐は三名の他にも荷役がいたことを思い出し、彼らを指示して荷物を蔵に運び入れる。荷物の中には、白い布で何重にも巻かれている自分の背丈ほどの大きなものもあった。
無性に気になった吉佐はおもむろに布を解くと、
「な・・・ なんだ、こりゃ!?」
現れた荷を見て思わず固まった。なんと、それは大砲だったのだ。
驚いた吉佐は他の運び込まれた荷を急いで確認する。すると、火縄銃などの銃器類に刀、槍、更には火薬が詰まった樽などが大半であった。
「お、おい! こりゃ、どういうこった!?」
「・・・・・・」
慌てて荷役の一人を捕まえ問い質すが、彼は無表情でじっと吉佐を見つめるだけだった。
ふと周りを見回すと、荷役たちは皆同じように無表情で、吉佐の目にはまるで自らの意志がない人形のように見えた。黙々と武器を整理する彼らを見て、吉佐は思わず鳥肌が立つ。
「なんなんだ、こいつら。この荷物といい・・・ まさか、戦でもおっ始めるつもりかよ」
そんな不安が、口から漏れ出る。
この時、倉から少し離れた茂みを素早く動く影があったのだが、吉佐がそれに気付くことはなかった。
つづく
↓この話の第一話です。