【短編小説】異世界:魔法使い(闇系)を雇って・上
■本文
ここは魔法が存在する西洋ファンタジー的な世界。これはそこで暮らす、とある職業人の物語である。
私は伝統あるグエン子爵家にお仕えする執事、バドラーと申します。
我が主であるグエン様は良いお人なのですが、一つ大きな悩みがありました。
今まで散々ご苦労されたので、その悩みも本日で解消出来ると良いのですが・・・
コンコン
ノックする音が聞こえ、私は扉を開けました。すると、そこには待っていた人物、魔法使いのローブをまとった陰気そうな男が立っていました。
(ああ、この方が今度の請負人ですね)
私はその訪問者を丁重に迎え、主人の元へと案内します。
(今度こそ、今度こそ、上手くいくと良いのですが・・・)
主人の悩みが解決するよう、強く願いながら。
----------------------
「グエン様、例の件でフォンセ様がご到着されました」
「うむ・・・ ご苦労」
背を向けていたグエン様はお返事とともに、こちらを振り向きました。グエン様は背が高く痩身でお顔も整っておられ、ナイスミドルという風貌です。
服装もいつものように綺麗に着こなしておられましたが、髪型がややずれておいででした。きっと、逸るお気持ちが現れたのでしょう。
私は気付かない振りをして報告をした後、扉の近くまで下がります。部屋を退席しないのは、何かあった時の備えのためです。
貴族というのは敵が多く、このフォンセ様も敵方の刺客ではないと言い切れませんから。
「さて、フォンセ殿。まずは我が屋敷までご足労頂き、誠にありがとうございます」
グエン様は相手が若造にも関わらず、丁重なご挨拶をなされます。
「いえ・・・ 高額の依頼とあれば、どこへでも参上いたしますよ。 ひひひ・・・」
これに私は少々ムッとしてしまいます。いかに依頼された側であろうと、子爵に対する態度がなっていません。
(このガキ・・・ 口の利き方も知らんのか!)
しかし、さすがは我が主。そんな無礼な態度にも嫌な顔一つせず、話を続けます。
「その依頼についてだが、早速話してもよかろうか?」
「ええ、構いませんよ・・・」
すると、グエン様はややずれた髪に手を当てると、そのまま髪の毛を丸ごと取ってしまいました。
そう、我が主の悩みとは『ハゲ』だったのです。見事なつるっぱげが現れると、あろうことかフォンセの野郎が思いっきり爆笑し始めました。
「あ~ひゃっひゃっひゃ! 超うける~! つ、つるっぱげだ~!!」
子爵を遠慮なく笑うとは! 私が無礼をたしなめようと近づくと、グエン様が手で私を制します。
「よい、バドラー。もはや、慣れたものよ」
私は主の心の広さに感動します。と、同時に主の後光に目が眩みます。
(あ・・・ その角度だと日が反射して眩しい・・・)
フォンセが落ち着いたところで、グエン様が用件を切り出します。
「依頼というのは他でもない、この無毛を何とかして欲しいのだ」
『ハゲ』ではなく『無毛』と拡張高く呼ぶことで己を慰めている気持ちが伝わり、私は思わず涙が出てきます。
「え・・・ 何とかって、俺、『闇』魔法使いなんだけど」
このガキ、いえフォンセ様が戸惑うのも無理はありません。彼は高名な闇魔法の使い手ですが、それが何故ハゲ対策で呼ばれたのか?
それには事情があったのです。
「うむ。まずは、背景を説明するか」
すると、グエン様は私に目で合図をします。
「はい、それについては私からご説明をいたします」
一歩前に出ると、私は今までの経緯を語ったのでした。
まず、育毛と言えば『光』だろうと、光魔法の使い手を呼びました。そして四六時中グエン様の頭に光を当て続けたのですが効果はなく、それどころか残った髪の毛も白くなってしまいました。
そんな主人の姿を見ながら、光魔法の使い手はサングラスをかけたまま、
「過ぎたるは及ばざるが如し、ですな」
と、よくわからない事を言ったので、帰り際に主人の見えないところでぶん殴りました。
次に、育てるのであれば『土』だろうと、土魔法の使い手を呼びます。主人の頭をよく肥えた土壌で覆い毛を育てようとしたのですが、結果は主人の頭に大輪の花が咲きました。
「春が来ましたね~」
と、これまた意味不明なことを言ったので、帰り際にそいつの髪の毛を数十本むしってやりました。
そして、次に呼んだのは『火』の使い手です。
『お灸』というものがあるらしいので、それを参考に火であぶって血行を良くすれば生えるのでは? と試してもらったのですが、結果は残った白い毛が焼き尽くされ、更にはまだしがみつくように生えていた毛根まで死滅してしまいました。
「あ~、毛根までいっちゃったね~。もう、こんりごり! なんちゃって!」
ギャグでごまかそうとしたので、帰り際にパイルドライバーをかましてやりました。
そうして毛根まで死んでしまいましたが、主人は諦めませんでした。王立図書館で書物を何日も読み漁った結果、一つの可能性に行き着いたのです。
「それが・・・ 闇魔法、だと。 ひ~、おかしい・・・」
「ええ。正確には、闇魔法で黒い生物を召喚し、それを頭に寄生させる、です」
私が真剣に説明しているというのに、フォンセの奴は笑い過ぎて死にそう、という顔をしています。
(この野郎・・・ もし上手くいかなかったら、お前には筋に〇バスターをかけちゃるぞ!)
そう、私は心の中で誓ったのでした。
つづく