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【短編小説】異世界:魔法使い(補助系)が雇われて・下

■本文

「わかりました。私、伯爵様の覚悟に感動しました。それでは戦いでよく使う攻撃力を上げる『バキイルト』、守備力を上げる『スカラベ』、素早さを上げる『ピヨリム』、この三つを同時に掛けます」

「うむ。頼んだぞ」

私が精神を集中し魔法をかけた途端、伯爵様の目がかっと見開きました。

「オオ! コ、コレハ,ソウゾウイジョウノチカラガ…! コレナライケル、イケルゾオ!」

話す速度が速く、声色も若干高くなった伯爵様は物凄い勢いで文書に目を通してはサインをしていきます。さらに足元では、これまた凄い勢いでジャンガジャンガのブロックを足で引き抜いては上に積み重ねていきます。

(ジャンガジャンガは続けるんだ・・・)

私が半ば呆れていると、伯爵様がふと手と足を止めて尋ねます。

「チナミニ,コノコウカハドレグライ?」

「え~と、持続性を長めのものにしましたので、三日くらいかと」

「ナニ!? ミッカモ! ゴイス-!」

「では三日後にまた来ますので、今日のところは失礼いたします」

「ウム! アリガトー!」

期待以上の効果に伯爵様は大変ご満悦な様子で、私は今日の分の報酬を頂いて屋敷を後にしたのでした。

そして三日後。再び伯爵家を訪れるとちょうど効果が切れた直後だったようで、

「おお~う・・・ きっつ~~」

まるで昨夜飲み過ぎたおっさんのように、気怠そうにしていました。

「ですから、きついと言ったではないですか。どうします? 精神を高揚させる魔法をかけますか? それとも、ここで止めますか?」

「なんのこれしき! ここで怯む私ではない! 強力なやつを一本打ってくれ!」

聞きようによっては怪しいク●リと勘違いされそうな発言でしたが、私はここで自ら開発したテンションアゲアゲ魔法『ヒー・ハー』をかけます。すると・・・

「お、おおおお~~!! 来た来た来た~!!」

伯爵様はまるで上着を脱ぎ捨てんばかりの勢いになります。その上であのアシスト×3を加えると、

「ヨッシャー! コレヨコレ! モウコレナシジャイキテイケナーイ!」

と、瞳孔全開になり、またしても誤解されそうな発言をされます。
そうしてまた三日後に来ますと、お暇しようとしたところ、

「ア、マッテ!」

呼び止められたので何事かと思いましたが、追加の依頼でした。依頼の中身は自分の処理能力は上がったのだが移動時間が以前のままでもったいないのでなんとか出来ないのか? というものでした。

さすがは仕事人間、詰めるところはとことん詰めるのだなあと半ば呆れ半ば感心しつつ、それならばと馬と御者にアシスト魔法をかけました。すると・・・

「ウオオオオ~~! イケ~、タマクロス!」

「ヒヒ~ン!」

御者は大車輪ムチを入れ、馬もそれに応えてすっ飛んでいきます。

「アリガトー! ジャア、マタミッカゴニー!」

伯爵様は馬車の窓から手を振っていましたが、動きが早すぎて良く見えませんでした。

そしてさらに三日後。伯爵様、御者、馬に魔法をかけ終わると、さらに追加があると言い始めます。

早口なので聞き取りづらかったのですが、仕事量は前の倍はこなせるようになったものの、世話するメイド、執事の補佐が追いつかなくなったため、彼らにも魔法をかけて欲しいという内容でした。

「わ、私もですか!?」

執事は嫌がっていましたが主人の命令には逆らえず、私も遠慮なく魔法をかけます。すると・・・

「コ,コリャスゴイ! ニジュウハワカガエッタヨウダ~! バアサ~ン!」

これまた瞳孔全開になり、すごい勢いで仕事をやり出すのでした。
こうして三日おきにテンション上げ、アシスト魔法を繰り返すことを続けた結果、クラウス伯爵家の領地は更に発展していくのですが・・・

ある日のこと、私はギルドのヒューズ様に経過報告をしました。

「・・・という内容だったんですよ」

「そりゃまた・・・ 凄いこと考えるな伯爵様は。ご本人は望んだ結果だからいいが、巻き込まれた周りのやつらはいい迷惑だな」

「そうなんですよ。周りがみんな倍速で動いているので来客者も気味悪がって長居しないですし、魔法の強度はどんどん上げる羽目になってますし、最近は屋敷内のものを『赤色』に変え始めましたね」

「赤? なんでまた?」

「ええ、なんでも赤にすると三倍速くなるっていう噂を耳にしたらしく、それで・・・」

「なんじゃそりゃ。・・・しかし、いつまでも続くとは思えんけどな」

ヒューズ様が渋い顔でお茶に口を付けると、急使が駆け込んできました。

「た、大変です! クラウス伯爵家の人たちが!!」

嫌な予感がした私とヒューズ様は伯爵様の屋敷へと急ぎ駆けつけます。そこで見たものは・・・

「わ、こりゃひどい・・・」

「やっぱ、こうなるよな・・・」

伯爵様をはじめ、執事、メイド、御者、馬など、私のアシスト魔法を受けた者達が皆真っ白に燃え尽きていました。そんな中、伯爵様は全力を出し切れたことに満足したのか、、

「ふふ・・・ 燃え尽きたよ、燃え尽きちまったよ、とっつぁん」

と、とても清々しい表情を浮かべていました。
そして、伯爵様の足元にはもうこれ以上は動かしようはないという絶妙なバランスで傾いたジャンガタワーが完成していました。

「あ~あ、言わんこっちゃない・・・」

ヒューズ様が頭を抱える中、私は伯爵家の家訓『一日三十時間働けますか?』と書かれた掛け軸に違和感を覚えます。

「ん?」

近付いてよ~く見ると、隅の方に小さい字で『出来る訳ねえだろ、馬鹿野郎!』と書かれていました。

「・・・・・・」

誰が書いたかはわかりませんが、

(まあ、そりゃそうだよね)

と、強く共感したのでした。

この出来事は王国内でも大きな問題となり、このことががきっかけで『働き方改革』なるものが検討され始めたのでした。

・・・皆さんも無理はほどほどに、体へのダメージは後からきますから。

おわり


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