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【長編小説】二人、江戸を翔ける! 5話目:エレキテるおじさん④

■あらすじ
 ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・りんを助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛とうべえ。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。これは、東京がまだ江戸と呼ばれた時代の、奇想天外な物語です。

■この話の主要人物
藤兵衛とうべえ:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
りん:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
平賀ひらが源内げんない:自称・天才発明家。何故か、おじゃる言葉のおっさん。

■本文
 こうして半ば押し付けられる形で『からくり人形・花子』を預かることになった藤兵衛は、とりあえず依頼を受けた旨をお梅婆さんに報告する。すると、予め話がついているのか、

「そうかい」

の一言だけで済まされた。その際に花子をちらりと見て、

「なんだか気持ち悪いねえ。それは、あんたのたなにでも持って行きな」

と嫌な顔をされたので、花子は藤兵衛の部屋に居候することになったのだった。

 それから数日後の暮れの六つ頃(午後六時ごろ)。『いろは』の仕事が終わった凛がいつものように土左衛門どざえもんだなの前まで来ると、ぼそぼそと藤兵衛の部屋から話し声が聞こえてきた。

(あれ? お客さんかな?)

そう思い様子を伺っていると、続けてこんな声がした。

「調子悪いのか? 花子。よし、それなら俺が見てやろう。さあ、まずは服を脱がしてあげよう」

(うん!? 今、花子って言ってたわね。・・・何? 今の台詞は?)

気になった凛は、思わず聞き耳を立てる。

「どれどれ・・・ ああ、なるほどここか。それじゃあ、良いものを入れてやろう」

(え!?)

「どうだ? 気持ちいいか?」

(えええ!!)

「もっと欲しいのか?」

(ちょっとぉおおお!!!)

ここまで聞くと、凛はもう我慢が出来なかった。

「何してんの!!」

叫び、勢いよく戸を開ける。
すると、藤兵衛が花子を抱きかかえ、片手には筆を持ってぽかんと凛を見ていた。

「え、何って・・・?」

「いくら寂しいからって、人形相手になに変なことしてんのよ! この変態!!

「へ、変態って・・・ ただ、油を差してただけなんだけど」

「へ? 油?」

「そう。花子の動きが固かったんで」

ここで、凛はやっと自分の勘違いに気が付く。

「そ、そうだったのね・・・ でも、誤解されるような発言はよしてよね! というか、人形相手に話しかけるのも、どうかと思いますけど!」

凛は気恥ずかしさを隠そうと、顔を赤らめて文句を言う。

「そんな事言われても・・・ 一人が長かったから、ついつい独り言が出るのかもしれない」

言い訳めいたことを言うと、藤兵衛は花子の構造について語り始める。

「ところで凛。この花子の構造、結構すごいぞ。動力はぜんまいなんだけど、そこに歯車を幾つも組み合わせて、色んな動きをさせてるんだよ。あの酸っぱい飲み物も、ここの革袋に入れるようになってて、これまた歯車が特定の位置にきたら開く仕組みになってるんだ。さすが、師匠だ」

「ふ~~~ん、そうなんだ」

熱く語る藤兵衛に対し、からくりには興味がない凛はそっけない返事をする。

「む、なんだその反応は。そんなだから、師匠のような天才が世の中に埋もれたまま・・・」

「はいはい、わかりました。・・・って、それよりいつまでその人形預かってればいいのさ?」

鬱陶しいので、話題を変えるついでに疑問に思っていたことを口にする。

「いつまでって・・・ いつまでだろう?」

藤兵衛はその件については、頭の中に全くなかったらしい。

「あのねえ・・・。 それと、ふと思ったんだけど、その人形って源内さんが作れるんでしょ? だったら、人形さらうより、源内さんさらったほうがいいんじゃない? 数だって作れるし」

「あ・・・ そう言われると、たしかに」

凛の指摘に、藤兵衛はハッとする。

「って事は・・・ 師匠が危ない!」

そう言うやいなや、藤兵衛は花子をおんぶしてすぐさま源内の家へと駆け出した。

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 源内の家に到着する頃には、すでに日が落ちて薄暗くなっていた。そして家の周りには人だかりが出来ており、何が起きたのか尋ねると、強面の男が家に大勢押しかけていったとのことだった。

「師匠! 無事ですか!?」

急いで家の中に入ると、源内は数人を相手に奮戦しているところだった。

「おお! 藤兵衛でおじゃるか! ちょうどよかった。こやつら拙者と花子をさらおうと・・・ って、花子も連れてきたのでおじゃるか!」

「ええ、何かあるといけないと思って」

『花子』の単語に反応し、強面の男達が藤兵衛の方を振り向くと大いに驚いた。

というのも、そこには女の子の人形を紐で背負い、鉄の塊のようなものを持った隻眼の男が立っていたからだ。

「なんだてめえは? 変な恰好して、変態か!?」

そう言って近づいてきた男の腕を、藤兵衛は掴んでひねり上げる。

「師匠の血と汗の結晶を馬鹿にするばかりか、師匠まで襲うとは・・・ 許さん!」

「い、痛ててて、何言ってんだ。変態ってのは、お前のことだ!」

腕を自分の元へ引っ張ると、男は腕をさすりながら続ける。

「いてててて・・・ まあいい、丁度よかった。その背負ってる人形を俺らに渡してもらおう・・・ ぐぇっ!」

台詞を言い終わらないうちに、男は強力な一撃を食らい吹き飛んでいく。

「こ、この野郎! おい、この変態を先にたたんじまうぞ!」

「「お、おう!」」

こうして押し入った男たちは、藤兵衛に狙いを定めて殴り掛かるのであった。

つづく

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