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【短編小説】異世界:魔法使い(土系)が雇われて・上

■本文

 ここは魔法が存在する西洋ファンタジー的な世界。これはそこで暮らす、とある職業人の物語である。

「ここか・・・」

ギルドからもらった地図と照らし合わせ、ここが依頼人の家であることを確認する。目の前の大きな屋敷には、

オカン・モータロー

という、個性的な字で書かれた表札が掲げられていた。

私の名はアダマー。数少ない魔法使いの一人で、『地味』と呼ばれる土系魔法を得意としている。

そりゃあ土人形作ったり、土壁作ったり、整地したりと見た目は地味かもしれないが、一番世の中の役に立っている魔法だ、と私は自負している。

そんな私が何故ここにいるかというと、『逆指名』を受けたためだった。
通常冒険者側が仕事を選ぶのに対し、逆指名とは依頼人が冒険者を個別指定してくるもので、当然ながら名の売れた冒険者でなければ逆指名を受けることはない。

きっと子供たちに泥団子を作ってあげたり、ちょっとエッチな像を作ったりと、私の地道な土いじり活動が評価されたのだろう。陰では『イジリー・アマダ―』と少し恥ずかしいあだ名で呼ばれているが・・・

中に入ろうと扉に手を掛けたところで、何やらガラスが割れるような音が建物の中から聞こえてきた。

(なんの音だ?)

気になってそ~っと扉を開けて中を覗くと、頭の両脇にだけ白い髪の毛が生えた爺さんが、

「違う! これでもない! 儂のハートにグッときて、ブッと出るものじゃなぁあい!」

なんてことを言いながら、壺を床に投げつけていた。

その光景を呆然と眺めていると、爺さんの横にいた壮年の男性が私の存在に気付いた。

「あ、お客さんですか?」

「これは失礼しました」

慌てて扉を開けて名乗ると、男性の目つきが変わった。

「せ、先生! 来ましたよ!」

「うん?」

「ほら、ギルドに依頼した、あの『イジリー・アマダー』さんが!」

すると先生と呼ばれた爺さんのみならず、周りにいた人たちも私に注目する。そのあだ名は恥ずかしいので、あまり大っぴらに叫ばないでほしいのだが・・・

「おお! あなたが、あの高名なミスター・イジリーか。待っておったぞ!」

(イジリーじゃなく、アダマーですが・・・)

私は心の中で反論したが訂正はせずに爺さんと握手を交わすと、そのまま応接間へと案内されたのであった。

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 応接間へ通されると簡単な自己紹介をされ、早速変な髪型の爺さん、モータロー氏が依頼内容を語り始めた。

「実はのう。ミスター・イジリーをお呼びしたのは、スペシャルなツッチーを作ってもらうためじゃ」

「は? ツッチー?」

それと私の名前はアダマーです、と心の中で付け加えると、同席していた弟子が補足をしてくれた。

「あ、ツッチーというのは、のことです。うちの先生、ちょっと言い方が変わってまして・・・」

「ああ、なるほど」

特殊な土を作るのか、それなら逆指名された訳もわかる、と私は一人納得した。そしてモータロー氏は更に続ける。

「今度、王都で展覧会があるのじゃが、儂も年齢的に最後の参加になりそうでのう。マイライフで後悔のないすんばらしい作品・・・ グッときてブッと出る作品を作りたいのじゃ! その為には、スッペシャルなツッチーが必要なのじゃぁああ!!」

モータロー氏は興奮してきたのか、どんどん距離を詰めてくる。

「だから・・・ だから、ミスター・イジリーの魔法でツッチーを・・・ スッペシャルなツッチーを作ってもらいたいのじゃあ! ・・・芸術は、えくすぷろぉぉおおじょぉおん!!

最後の方はこめかみに青筋が浮かび、唾が飛んでくるほどの勢いでまくし立ててきた。

「先生、落ち着いて。 あの・・・ おわかりになりました?」

「はあ・・・ なんとなくは」

弟子は息せき切っているモータロー氏の背中をさすり、私は布で顔を拭く。

「まあ、つまりは先生の納得いく土を魔法で作って欲しい、ということですね」

弟子がさらりとまとめ、早速仕事に入ることになった。

仕事場へと案内される道中、ところどころに壺やら像やらが置かれているのが見えた。歩きながらそれらを眺めていると、私の視線に気付いた弟子が説明を始める。

「これらはうちの先生、オカン・モータロー先生の作品ですね。うちの先生はああ見えて世間では割と名が売れている工芸家でして、先生が気に入った作品をこうして並べているんです」

「そう言えば・・・ お名前は聞いたことがありますね」

芸術にはさっぱり興味がない私でも、オカン・モータローという工芸家の名は聞いたことがあった。

「これは『叫びの壺』ですね。先生が実際に奇声を発しながら作ったものです」

そこには、怖ろしいものを見て叫んでいるような顔が幾つも重ね合わさった壺があった。口の部分は穴が開いているので、実使用には適さないだろう。

「こっちは『少年から大人へ』の像ですね。先生は当時、会心作だと喜んでいました」

弟子が指し示す先には、全裸の少年の像があった。
ただ、男性器が凶悪なほどの大きさで、何を参考にしたのだろう? と勘繰らずにはいられない作品であった。

「そしてこれが代表作『異様の塔』の100分の1スケールのミニチュア像です。アダマーさんもご存じかもしれませんが、王国博覧会で話題になった作品です」

「こういう形だったのか・・・」

これは私でも知っていた。博覧会に出品されたもののあまりに巨大で会場の屋根をぶち破ったあげく、他の作品を置くスペースがなくなり急遽別会場が設けられたいわくつきの作品であった。しかも、大き過ぎて近くでは只の巨大な柱にしか見えず、観客は誰一人作品だと気づかなかったとか。

「・・・・・・」

常人の感覚ではまるで理解出来ない作品群を見るうち、依頼内容がこなせるのか段々と不安になる自分がいた。

つづく

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