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【長編小説】二人、江戸を翔ける! 6話目:筆は刀よりも強し②

■あらすじ
 ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・りんを助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛とうべえ。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。今回は、読売よみうりと一騒動起こすお話です。

■この話の主要人物
藤兵衛とうべえ:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
りん:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
助弥すけや:読売屋『真実まみ屋』の主人。熱い情熱を持つが、強引なところがある。

■本文
 暫くすると、若い男は目を覚ました。

「あ、あれ? 度度須古どどすこの奴らは?」

殴られて記憶が飛んだのか、きょろきょろと辺りを見回す。

「あの人たち? どっか行っちゃいましたよ。それより体の方は大丈夫ですか? 医者に連れて行きますか?」

「そうか、私の熱い魂であいつらを追い払ったのか」

凛の問いかけに意味不明な回答が返ってくる。
どこをどうすれば、そんな解釈が出来るのだろう? 呆れた藤兵衛は一部始終を話した。

「・・・そうか、君たちには世話になったようだな。ありがとう、礼を言うよ。・・・ただ、申し訳ないが、家まで肩を貸してもらえないだろうか? 家はここから割と近いんだ」

それならと藤兵衛は男を背負い、家まで運ぶことにした。

「すまない。重かったら遠慮なく言ってくれ。ゆっくりなら歩けそうだから」

「いや何、平気ですよ。いつももっと重いのを背負ってますから」

藤兵衛のこの台詞に、

(ん? それどういう意味?)

そう言いたげな目線を、凛が投げかけるのであった。

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男の家に向かう道中、男は簡単な自己紹介をしてくれた。
名を助弥すけやと言い、中規模ではあるが『読売屋』を営んでいるとのことだった。読売屋と聞いて、凛と藤兵衛は思わずドキリとする。

読売屋とは瓦版を発行している店であり、これからその瓦版の内容についてお梅婆さんのところへ相談しにいく途中だったためだ。
気まずさからか凛は話題をそらそうとする。

「助弥さんは読売屋なんですね。でも、そうするとさっきの人達は一体なんだったんですか?」

「ん? ああ。あいつらは悪党に雇われたゴロツキさ。実は今、私はとある藩の不正を調べていてね。それを止めさせようと、ああいうゴロツキを仕向けてきたのさ」

「藩の不正、ですか・・・」

いきなりスケールの大きな話が出てきたため、凛は驚いてしまう。

「ああ、そうさ。しかし、なんの! 力に屈する私ではない! 必ずや読売屋、札差ふださし、そしてしょう喪内もないの三つが組んだ不正の闇を暴き出し、白日の下に晒してやるのだ! ・・・あ、そうそう、これは秘密裏に事を進めねばならないから内緒だぞ? この件を君達も知ったと向こうがわかれば、君たちにも迷惑が掛かかってしまうからな!」

(秘密裏にって、もうバラしてるじゃん・・・)

これには藤兵衛だけでなく、凛も呆れていた。

(初対面の自分たちに話すのはどうなの?)

そう言いたげな顔をしている。
どうやらこの助弥という男性は情熱を持っているのかもしれないが、思いが強すぎて周りが見えなくなるタイプなのだろう。

そんなことを考えながら歩いていると、やがて助弥が経営しているという読売屋に到着する。真実屋まみやと屋号が書かれた看板が店の脇に掲げられており、表は読売屋の作業場、奥は住居という作りであった。

店の前で助弥をおろすと、中から血相を変えた女性が飛び出してきた。

「あ、あなた! その怪我はどうなさったのですか! もしや、もしや・・・ 度度須古組が!?」

「なあに、この程度、真実を追求する重さに比べたら軽いものよ。そうだ、お万、この方たちが助けてくれたんだ」

助弥が藤兵衛たちを紹介すると、お万と呼ばれた女性は深々とお辞儀をする。

「まあ、そうだったんですか。本当にありがとうございました」

「いえいえ、困った時はお互い様ですから」

「いつかこのお礼は必ずいたします。主人をおぶって、さぞお疲れでしょう? 大したもてなしは出来ませんが、お茶でも召し上がってください」

どうやらお万というこの女性は助弥とは違い、常識人のようだと藤兵衛は一安心した。

「では、お万。この方たちのことは頼んだぞ。私はちょっと現場に行ってくる」

そして助けてもらった当人の助弥は、後はお万に任せたとばかりに、手当もロクにしないまま作業場の方へ歩いていった。

「だ・・・ 大丈夫なんですか? 助弥さん」

「ああいう人ですので・・・ さぁどうぞ、こちらへ」

お万は少し翳りのある表情で藤兵衛と凛を座敷へと案内する。お万の顔を見て、

(心配なんだろうけど、助弥さんは言っても聞かないんだろうな)

と、藤兵衛はお万の心中を察した。

「どうぞ、大したものではございませんが」

差し出されたお茶と付け出しの菓子はどちらも上品な味わいで、お万の人柄の良さが伝わってくる。落ち着いたところで、藤兵衛は言うべきかどうか迷ったが、結局は事の顛末をお万に話すことにした。

「お万さん・・・ 実は助弥さんの怪我なんですが、度度須古組の奴らに絡まれて出来た怪我でして」

すると、お万はやっぱりという顔をした。

「やはり、そうなのですね。あの人は、昔からああいう人なのです。こうと決めると、相手がどんなだろうと真っ直ぐ進む人で」

お万の言葉に藤兵衛はちらっと凛を見る。凛は目線に気付き、

(なに? なんか言いたい事あんの?)

と、目で返す。

「そんな純粋さに惹かれ、一緒になったのですけど・・・ ですが、今回ばかりは相手が悪いと思うのです」

そう言うということは、お万には助弥が何を相手にしているのかがわかっているのだろう。

「大きな権力の前には庶民、ましてや一人の人間などあまりに非力だと思うのです。ですがそれを言うと『非力だからこそ、常に声を上げ続けねばいけないのだ』と返されて。言いたいことはわかるのですが、このままではいつかとんでもないことが起こりそうで・・・」

多少のろけも混じっていたが、本気で心配していることが伝わってきた。

「あら、いやだ。私ったら助けて頂いた方にこんな話をして。・・・そうだ、せっかくなので主人の仕事場を見に行かれてはいかがですか? うちは読売屋ですから、普段見られない物もありますので」

あの瓦版の件もあったので、それならと藤兵衛と凛はお万の言葉に甘えるのであった。

つづく


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