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小川洋子さん『寄生』(『約束された移動』より)

(あらすじ)

虫博物館で出会った彼女の結婚の申し込みをしようとレストランの予約をして向かう途中で老女が右腕にしがみついてきた。

交番でお巡りさんに離してもらおうとするがどうしても離れない。

予約したレストランの電話番号の紙もズボンのポケットからから見つからない。レストランの電話番号も探してもらっても見つからない。

そうするうちに老女にお茶を飲ませていると母親の気持ちのように感じてくる。

老女からは始めは生き別れた息子だと言われ、次には右腕を失った父ちゃんだと言われた。

その後施設の人が老女を迎えに来た。

約束の時間が一時間以上過ぎた後にも彼女は待っていてくれた。

説明しないうちに、事情も十分に分かってくれていた。


(感想)

寄生するハエに自分の眼球を差し出してもいいという彼女。

出会った虫博物館も時間つぶしだったけれども、右腕にしがみついて離れない老女に対して次第に優しい気持ちを持つようになる僕。

そんな二人が待ち合わせしていたレストランに一時間以上も遅れてやってきた僕に事情を説明を聞かないでもよく分かっている彼女。

そして役目は無事に果たせたかを聞き、うなずく僕に微笑む。

心がつながっている二人なんだ。

二人の事だけしか見えない人には分からない世界があり、寄生されても構わないと思うことができる人同士が心通わせる世界。

そこには多くの言葉は必要なく、役目を果たしたかどうかを確認するだけでいい。

共通の思いを持てるのであれば、通じあう想像力があれば人と人は確かに安らかに生きてゆくことができる。

そこに到達するためには寄生を受け入れる心を持っていなければならない。

差し出す勇気が次のレベルへとつながり、心の安定とさらなる勇気をもたらしてくれる。

眼球をハエに差し出すことができるか、老女に右側を差し出すことができるか、自分自身を差し出すことができるか。







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