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さようなら、好きだった人

1年半片想いし続けて、最後はあっけなく終わった人にどこか似ていた彼。だから惹かれたし、最後まで彼だけを見ることができなかった。

*

社会人になって、上京して初めての一人暮らし。右も左もわからないまま、住む部屋を探しに東京に向かった。たまたま見つけた不動産屋さんに入ると、同い年くらいの男の人が迎えてくれた。それが彼だった。

探し始めた時期が遅かったからか、希望の条件を満たす部屋はその地域では見つからなくて。

諦めて別の不動産屋さんに行こうかな。
そう腰を上げようとしたとき、

「遠いけどここ見に行ってみますか?」

そう彼が提示してきたのは、お店から車で1時間以上かかるところにあるマンションだった。

たしかに『他に検討している駅』としてあげていた住所。
けど、平日にもかかわらず、わたしと同じく新社会人というような人たちで賑わう店内。すぐ隣で対応に追われる店員さんが目に入った。

「いいんですか?」
遠慮がちに聞くと、

「大丈夫ですよ!息抜きにドライブ行きましょう」
そう言って彼は笑った。

ああ、似てるなあ。相手の気持ちを軽くしてくれる言葉を自然と選んで届けてくれるこの感じ。

*

車内では「ここ僕の地元なんですよ」
なんてたわいもない話をして、
「お腹すいたね」
ってごはんも一緒に食べた。

結局お店とマンションの間を2往復して、さんざん悩んで紹介してもらった部屋に住むことにした。

「契約のやり取りとか、気軽にできた方が楽でしょ?」
そう言われて連絡先を交換した。その言葉の裏側にある別の意図に気がつきながら。

*

思った通り、彼からは契約に関すること以外の連絡もくるようになった。

やっぱりあの人に似てる。
電話越しに聞こえる声のトーン、
「会いたいな」なんて期待させてくるところ。

けど似てないところもあった。
「もう彼女だと思ってる」なんて、決定的な言葉を言ってくるところ、
他の男の子の話をしたらやきもちをやくところ。


あの人と似ていて、けど違うから。
彼とならうまくいくのかもしれない。

そう思って彼の告白を受け入れた。

*

そこから一年半、彼と過ごした。

旅行にも行ったし、なんとなく結婚の話も出たこともあった。

けど、結局うまくいかなくなった。


別れるときはそれなりに悲しかったし涙も出たのに、思い返すと彼のことがなにもわからないことに気づいた。

彼はなにが好きで、なにが嫌いなのか。どんなことで笑って、どんなことで泣いていたか。なにも知らない。


きっとずっと、彼を通して別の人を見ていたから。

*

今、ひとりぼっちの部屋で思う。

これからはもう二度と、誰かを通して他の人を見たりしない。


さようなら。
彼と、ずっと好きだった人。

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