少女漫画の定跡を覆した、矢沢あい先生の「脱・おにぎり」。
※画像は壁紙 | 集英社 Cookie (shueisha.co.jp) より引用
言わずと知れた有名漫画家、矢沢あいさん。
映画化されたNANAやパラキス、アニメ化されたご近所物語など、
知名度と人気は女性漫画家の中でも群を抜いているだろう。
私もファンの一人。
特に1990年代にりぼんで連載されていた
「天使なんかじゃない(以下、天ない)」が大好きだ。
晃…高校生かよほんとに。不良が雨の中子猫を拾うとかさ。
惚れるだろ普通に…。
(画像はNANAなのにすみません…フリーの画像がなくて…)
-------▼以下、少しだけネタバレ含みますのでご留意ください▼-------
好きな理由は、少女漫画の常識を打ち破ったことだ。
私が読んできた少女漫画の王道の多くは、以下のような流れだ。
男の子が女の子を実は好きで、告白される。うそ、両想いじゃん!
…そんなドキドキワールドに誘われる展開が主流だった。
天ないは、主人公が一向に告白されない。
主人公の翠ちゃんは猛烈好き好きオーラを出すんだけど、晃は告白しない。
でも、翠ちゃんを大事にしている気持ちはひしひしと伝わる。
その表現が、当時の私には斬新に映った。
で、最終的な私のぶっささりポイントは、
晃がインドから帰ってきて翠ちゃんと再会したシーン。
「愛してるよ」「俺も」。
…この愛してるよって、翠ちゃんが言うんです。
で、晃は「俺も」だけ言って、キスするんですよ。
シンプルなのに、愛が詰まりすぎている。
こんなシーンは今まで見たことなかった。
言葉で伝えるのが苦手な晃だってわかっているから、
翠ちゃんが代わりにたくさん愛を伝えているのだ。
矢沢あいさんの作品では、上記のように、
多くの人間の心の機微が丁寧に描かれいる。
クールで知的だけど、恋愛にコンプレックスを抱くマミリン。
孤独で愛を求めすぎてしまうナナ。
一人っ子でワガママ、彼氏に依存してしまう実果子ちゃん。
人間への洞察力が優れる矢沢あいさんだからこそ、
王道から外れた新しい愛情表現を、漫画の中に生み出せるのだ。
『ご近所物語』の番外編・カラフルの中で中学生の実果子ちゃんは、
今でいう同調圧力に従う生徒たちを「型抜きおにぎり」と例えた。
校則に従い、黒と白の制服に身を固めた姿をなぞらえたのだ。
矢沢あい先生は、おそらく自身の人生や恋愛経験で培った
人間心理を描写する技巧で、少女漫画の王道を、うち砕いていったのだ。
私が憧れ、好きなものは、やっぱりこの「異質さ」だ。
ジャンルにもよるが、漫画を描く上で、多様な経験は武器になるのだろうな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?