腐れ日記
仕事をしようと思ってカフェに来たらWi-Fiがまったく使い物にならない。せっかくコンセントがある席を確保したのに。帰ろうか、どうしようか。でもこの店を出てから自分がどこに行ってなにをしてるのか想像できなかったので、とりあえずその場の椅子に腰を降ろした。
隣の席の中年夫婦らしきふたりはずっとシリアスな空気を醸し出している。どうして夫婦って熟年になるとああいうキツい言い方でしか会話ができないんだろう。女性はずっとびりついている。首にコルセットを巻き付けながらうんうん相槌打ってるだけの男性におもわず同情したくなった。でも考えてみれば、男性のこの控えめな弱々しい態度こそが、横にいる女性の怒りをさらに助長しているのかも。
「ほんとあの子たちがいなかったらとっくに一緒にいれないもんね。子は鎹って言うけどさ、ほんと死んでるわ。いなかったら」
パンチがある。子供たちがいなかったらわたしたちの関係はないよね、どころか「死んでる」、って。聞いてるとだんだんわたしが傷ついてきた。
「でもあの子たちもさ、あと10年も生きないでしょ」
子供たちの寿命が決まってる?あの子たちってことは2人以上いるよね。子供が揃って同じ寿命ってなんて残酷な...と耳を済ませたら、どうやら犬の話だった。
「○○さんところは長くて15年、18年の子もいるらしいけどそんなに生きたらお化けよ」
長生きしてほしいのかしてほしくないのか。
薬、マンションにあるんでしょ?私いやだからね、今行かないと。あとでめんどくさい。と言いながら、テーブルの上の飲み物をそそくさと片付け、先に男性を残して帰って行った。男性は気まずそうに笑って会釈(首が真っ直ぐだから会釈できてなかったけど)して出て行った。
夫婦っていろいろだよなあ。
これからなにしようか。ビール飲みてえな。四文屋でも行こうかな?この店を出て四文屋に向かう自分の姿がうっすらと想像できる。でもこのあと、たまちゃんにご飯をあげに家に一度帰るわけで、部屋に入ったもんなら家から出るのは面倒くさくなって、仕方なく冷蔵庫にたまってるあんま美味くない発泡酒を飲むことになるだろう。そんでベッドに横になりながら、TikTokで素人がやってるあるあるネタとか観て時間を溶かし夜を迎えるんだろうな。
頼んだジンジャーエールの氷が溶けて、味が薄くなってきた。ちょうどいい。
マッチングアプリをひらくと相変わらずいいねがたくさん来てる。99+件って表示されてる。厳密には(いいかも)だけどほんとうに100人以上の男がわたしのことをいいかもって思ってるのだろうか?
まあ男も女もこーんなにたくさんいるんだから、そりゃあ100人くらいはいいかもっておもうかあ。家から一歩外に出たら人、人、人、人、人。視界に入るだけでもざっと30人くらいはいるもん。
でもAIみたいな文章ばっかでちょっと萎えちゃうな。高校生じゃないんだから。もっと気の利いた挨拶あるだろう!
「こんにちは!どこ住みですか?(笑ってる絵文字)」
高校生の頃GREEとかモバゲーでやり取りしてた男子とそんな変わらない気がする。(とはいえ自分からは真剣な文章は送らないのがずるいところ)
既読無視をしてスマホを閉じて、残りのほぼ水になったジンジャエールを一気に啜る。店を出たら空は濃い青色に変わっていて夏の終わりを静かに感じた。
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