「プロローグ」 「あの、喫茶店あるやん。あそこもう店閉めはるらしいわ」 大阪の母からLINEが届いた。混みあったホームで通勤電車を待っているときだった。昨年つまり2023年の5月、私は会社の東京支社に転勤した。東京での生活はまる1年を迎えた。その日は社内の会議の都合で、いつもより30分早い午前7時に起きた。まだ完全に目が覚めていない。眠たい。朝は弱い。瞼が重たい。 私が生まれ育ったのは大阪。と言っても梅田や難波ではない。多くの人は知らない思うが、千林。「せんばやし」と
仕事が終わって帰路につく。夏の日は長く、外はまだ明るい。帰宅時間帯の電車はいつも混んでいるが、クーラーがよくきいていることはありがたい。 家に帰って荷物を置くと、すぐにお風呂にお湯をはる。「暑い、暑い」と言いながら帰ってきたのに、お湯に浸かるのはおかしいだろうか? 買い溜めしているバスソルトや入浴剤の中から、その日の気分で選んでお湯に溶かし、好きな音楽をかけながらひとり時間を楽しむ。 そして、何よりの楽しみは、お風呂上がりのビール。少し低めに設定したクーラーの効いた部屋
喫茶店ではブレンドコーヒーを注文することが多い。どの喫茶に行ってもメニューの一番上にあるブレンドコーヒーを選ぶ。 喫茶店? カフェではなく喫茶店。カフェは現代的で喫茶店は古典的? カフェはチェーン店で喫茶店は個人店? いや、違うなぁ。言葉にはしにくいが、カフェと喫茶店は違う。喫茶店のドアを開けるときの、ドキドキする何とも言えないあの感じ。扉の向こうにはどんな光景が広がっているのだろう。喫茶店には非日常的な感じがある。 7月のある日。正午前の日本橋近く。ふと通りかかった