「見せ方」の美しさ、十三機兵防衛圏 (ネタバレあり)
一部で話題の「十三機兵防衛圏」というゲームがありまして…
10日ほど使って一気にプレイしました。中盤以降は止め時が止まらなくてうっかり朝を迎えてしまう、という社会人らしからぬプレイをしてしまいました。
ネタバレない範囲でいうと、世界が紐解かれていくのがとても気持ちよく、「謎を解き明かせ」という題目に対して最高の快感を与えてくれる構成になっています。戦闘パートは一見ガチっぽく見えますが、簡単な難易度でさらっと流してよく、オタクには幅広く薦められるストーリー重視の作品です。
このゲームは昨年の東京ゲームショウで試遊が出たとき、ビジネスデーに大行列が出来て途中で打ち切られていまして、仕方なく他人のプレイを眺めることになりました。確かセガブースの裏手に配置されてたのに、界隈の直感はまだまだ信用できるなと思ったものです。試遊範囲では雰囲気くらいしか伝わらないので、TGSを経て評価爆上げということもありませんでしたが。
評価されるべきは何なのか
このゲームは電ファミニコゲーマーで絶賛記事が上がっているのですが…
ちょっとピュアすぎるというか、これは新しい!みたいな変な感動をしているせいでむしろ作品の評価を落としているような気がします。記事内でも引用している、非常に興味深く整理されたアドベンチャーゲームのインタビューを前提としたうえでなぜこうなるのだ…
また、作品そのものではなく時間や手間をかけたことを評価しているのも時代遅れでしょう。そんなもので作品を評価するのは冒涜です。いや、それくらいしか売りがない駄作ならそれで良いんですけど、中身がしっかりしたものにそういったラベルを付けるのは、ノーベル賞学者の人格を褒めたたえるような気持ち悪さがあります。忘れないうちに、作品自体のすばらしさを残しておこうというのがこの記事です。
=== ネタバレ要素開始するので未クリア者は帰っておくれ ===
このゲームはストーリーの見せ方が全てでした。たくさんの主人公視点で物語に挑んだり、戦闘で武器射程の円錐形を操作したりと、まず前世紀の奇跡・ガンパレードマーチを思い浮かべてしまいましたが、終えてみるとまったく違うものでした。
ストーリーは一本で真実はひとつ。プレイ内容による変化もない。
複数のサブストーリー=ifシナリオを経て真実に到達していく全盛期シリアス系エロゲー的展開とも異なり、ほんとうに一本道でした。
主人公別に進められるけども、条件を満たさないと先に進めなくなるチェックポイントがあり、「若干の読む順序の前後は許すけれども、大枠の知る順序読む順序は定められている」という感じですね。では何が面白さを生んだのかと考えると、その制御された「見せる順序」が面白い。
世界構成の組み換え
最初は「ほーん時間旅行ねえ、はいはいよくあるタイムトリップかループ系ねー(鼻ホジ)」って感じで進めていたところに、どうもおかしいなという要素を少しずつ突っ込まれていき。タイムパラドックスへの違和感が生まれたのちに、時間旅行ではないのではないかという明確な違和感が三浦から提示されていくのでしたっけ。そこで「あー並行世界モノかー?」と思うとそれも若干違って。いやよく考えると、最終的には仮想世界だったのだから、別セクターというのは並行世界と何ら変わりはないのか…?
終わってみれば、全て捨てられてなかったことになるという意味での時間的ループはありませんでした。ifなど無かった。ループという語はあったけど、それは次の回のシミュレーションであって、前回が捨てられるわけではないし、セクター0への保存も編み出されていたし。
みんな知っていそうなよくある要素へのミスリードとそのひっくり返しを、不快感のない形で見せてくれたのが爽快でした。世界の構造が変わったときって、前提条件がごそっと変わるので、情報断片の再構成をしないといけないんですよね。それが気持ちよくて。パズルが組めてきたけど絶対完成しないな?おかしいな?って状態からの組み換え。
飛び飛びの時系列を情報提示していく観点では、頻繁にタイムトリップする「夏色の砂時計」を思い出したんですが、マイナーで誰にも伝わりませんね? 攻略チャート載せてるページを見るとなんとなく伝わるでしょうか。十三機兵はこういう世界構造な上に、ちょくちょく回想が入るので、とにかく見せられる情報の時系列がめちゃくちゃ。結果として夏休みのカレンダーを飛び飛びに埋める構造になっています。さらにカレンダーの枠、時系列の並びだと思っていたもの自体も十三機兵ではひっくり返されるわけですけど…
恋愛駆動
ところで、このゲームは行動要因が恋愛駆動である部分がやたら多いです。クリア直後には「行動の理由に恋愛衝動を使いすぎなので☆1です」みたいな気分に一瞬なりましたが、終わった後もう一度全体を読み返して考えると、これはこれで良かったと思いなおしました。
恋愛には一切の理由が不要なので、話の単純化ができます。頑張って個別にそれらしい行動理由を設定していくより、重要でない部分は恋愛で済ませてしまうというのも有用だなと。読者の処理リソースは限られるし、実はこんな因縁があってうんたらかんたらーと難しい設定作って説明されても、それが面白さをプラスすることにはなりませんから。(実際、2188年に起きたナノマシンや緒方会長関連のいざこざは、全然頭に入らず記憶にも残っていなかったことに後から気づきました)
この単純化がされたおかげで、難しい話が好きなオタク以外にも広くお勧めできる作品になっています。漫然と受動的に読み進めても、十分楽しめるストーリー構成に収まっているのではないかと思います。変な長文考察を働かせなくても、最終的には全貌が理解できるはず。話が難しいのではなくて、見せ方が独特だっただけなのです。これは良い。
そして時系列、セクター、キャラクターが認識しやすいイベントアーカイブが最高。
スタート近くのゴールへの快感
戦闘パートの置き方も絶妙でしたね。実は最終戦を延々やってました、っていう。そして、個別ストーリーの最後で最終戦の機兵起動シーケンスへ繋がっていく…。特に、オープニングで提示される冬坂の起動シーケンスに、冬坂100%地点で辿り着いたところでは鳥肌が立ちました。
先に引用したADVの記事では「タイムトラベル物のSFでは古典なんですけど,出口が入口の近くにあるって手法」って言われているものです。話的にはタイムトラベルしていないのに、プレイヤー側が時系列めちゃくちゃに飛んだ情報を見せられているのですよね。
いいぞ
・断片的に情報を出す手口がすばらしいぞ
・世界構造認識の転換に誘導されていくのが気持ちよいぞ
・一本道ストーリーで終わってみれば単純明快でわかりやすいのが良いぞ
世紀の大傑作!的な評価にはならないけれど、中盤以降まで進められれば広く受け入れられるのではないか、という作品です。こりゃー売れないよね。体験版でも公式サイトの紹介でも、すごい部分に一切届かないし、ネタバレ的言及をしてしまうわけにもいかんし。もちろん、YouTuber/VTuberに宣伝頼むのにも全く向かない。2005年くらいまでに出てくれていれば。
13人全員とその最低限の関係を認識して、タイムトリップ構造に疑問を持つあたりまでは投げ出さずに頑張ってもらう必要があるのが難点。キャラクターはかなり魅力的だけど、ストーリーを経てキャラクターに魅力や思い入れが積もっていくゲームであり、ビジュアル見せてどうだ!って類ではありませんね。ガルパンおじさんのように、十三機兵はいいぞ…と言っていくしかないのかな。