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変動する半分、変動しない半分

「証券会社の志望動機に、変動するものが好きだから働きたいです。って書いてもいいかなぁ」と、Nちゃんは言った。
口調は投げやりだけど、真剣な面持ちだった。

私は、「いいんじゃない。他の理由も書けば。」と投げやり半分、本心半分の気持ちで返した。

10年前。私たちは大学の就活支援センターにある白い丸テーブルで、企業に提出をするエントリーシートに手書きの文字を連ねていた。本心半分、美化半分の想いを乗せて。

エントリーシートを提出し、書類選考が通ったり通らなかったり、面接試験に受かったり受からなかったり、私たちなりに就活ドラマを繰り広げていった。

そして、変動するものが苦手な私は、転勤のない信用金庫へ就職が決まった。
変動するものが好きなNちゃんは、日々変動する株価と向き合う証券会社への就職を決めた。




先日、私たちは2年振りに会った。Nちゃんは昨年、女の子を出産した。
Nちゃんのご自宅にお邪魔して、Nちゃんの子どもに遊んでもらいながら、お互いの近況報告をした。

Nちゃんに会うと、いつも話してくれる私の過去のエピソードがある。
Nちゃんの仕事が思うようにいかない時期、「結婚をして仕事を辞めようかな」とNちゃんは言った。私は、仕事も趣味もやりたいことは何でも全力で取り組んで、悩むより先に行動するNちゃんの姿を見ていた。
「それは逃げなんじゃない?良くないよ」と私は言った(らしい)。我ながら偉そうな発言であるが、Nちゃんは会う度にこの話をしてくれる。気に入ってくれているエピソードらしい。

私もNちゃんに感謝しているエピソードがある。
ちょうど就活の時期、私は別の大学に通っている人とお付き合いをしていた。お互い就活生で、なんとなく忙しくなり、なんとなく連絡が途絶えていた。今考えると自分から連絡をすれば良い話であるが、当時は「連絡は男性からするもの」という、我ながら偉そうな考えを持っていた。このまま終わるのかな、でも終わるのは嫌だなとうじうじ悩んでいた時に、Nちゃんが私に言った。
「やっほー(^o^)/ 元気?って自分から連絡すればいいだけじゃん」
仰る通りだ。
「やっほー(^o^)/ 」は書かなかったが、自分から彼に連絡をした。彼とはその後1年くらい続いて、楽しい大学生活を送ることができた。(さらにその後はお察しください)
Nちゃんの一言がなかったら、なんとなく自然消滅して、一生後悔していたかもしれない。


Nちゃん、Nちゃんの子どもと私の3人でお散歩をした。大学を卒業してから10年も経ったんだね。と話していた。
Nちゃんと私は、新卒で入社した会社とは別の会社で働いている。Nちゃんは結婚をして母親になった。私は実家を出て一人暮らしをしている。
変動するものが好きだったNちゃんも、変動するものが苦手だった私も、色々なことが変化した。クサイ台詞しか思いつかないが、10年経っても変わらずに会える関係性であることが嬉しい。

お散歩中に私が、「旅行に行きたいけれど、全然行っていない」という話をした。
Nちゃんは、「行きたいなら行ったらいいじゃん。いつ行けなくなるかわからないし」と言った。
仰る通りだ。
私は一人暮らしの自宅に戻って、収納ケースの奥に閉まっていたパスポートを探し出した。有効期限は切れていない。
叶えようとしなかった願望を思い出し、いつか一生後悔する日が来るかもしれない。

大学時代に「変動するものが好きだったNちゃん」から背中を押してもらう私は、大学時代の「変動するものが苦手な私」のままだ。

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