全ての弱きものへ告げる MARS RED感想
※文章後半からネタバレです。気になる方は区切っているので途中まで読んでください。
2021年、今期観ていて面白かったアニメは「MARS RED」だ。藤沢文翁原作の音楽朗読劇で、2013年と2015年に上演された。
各放送局と、各配信サイトで観ることができる。放送日および配信日はバラバラで、7/5に全ての配信先の最終回を迎える。
私は音楽朗読劇のときは知らず、アニメの豪華な声優陣を見て興味を持った。試しに配信サイトで視聴したらハマってしまったわけである。
原作がこだわりの演出の音楽朗読劇からスタートし、各所の並々ならぬ情熱を感じられ、舞台を観ているようなアニメだった。声優の演技力は言わずもがな、劇中曲が、声優の演じたアフレコに合わせてオケ演奏されているので、尺が自然に収められているのが、この作品を舞台然とさせていた。
あらすじは、アニメ公式のイントロダクションも物語に引き込まれて素敵なんだけど、今回はわかりやすく体系的な漫画公式を引用する。
MAG KAN MARS RED あらすじ
http://kansai.mag-garden.co.jp/mars/より引用
ちなみにアニメと漫画であらすじは一緒なのだけど、ストーリーの切り出し方が違う。最終巻は7/14発売である。私は買う。
ヴァンパイアを取り扱いながら、特殊能力バトルものに重きを置かず、人間関係を中心に据えたストーリーに引き込まれた。特殊能力バトルものではない、と言ったが戦闘シーンの絵作りがスクリーン的でうーんと唸らせる。映画化しませんか?その暁には私は観に行く。
ここから先は、MARS RED最終話鑑賞後に読むのを推奨する。ちなみにスマートフォンゲーム及びラジオドラマは履修してないので、解釈の相違はご了承を願いたい。
MARS REDでヴァンパイアになってしまった登場人物は、人間らしさとヴァンパイアとしての身体の狭間で揺れ動いていた。
最も揺るがないのがタケウチで、研究と好奇心への追求が人間でもヴァンパイアでも問題がなく、その合理性と迷いのなさから、彼の出るシーンは明るい雰囲気だ。ヴァンパイアらしく空を飛ぶために翼を作るのもチャーミングだが、彼はできそうなことをやってみただけである。私はタケウチが一番好きである。
人間でありながら、自分を押し殺してきたのが前田大佐だ。彼は戦場で中島中将に救われたときから、命は中将にささげ、岬の死をもって自分のために生きる人生は消失した。ヴァンパイアになったときに、ようやく無意識下で自分のために生きていくのだ。人間としての自分を消失したときに、自己を取り戻すのはなんとも皮肉な話だ。
栗栖秀太郎はヴァンパイアになった自分を否定しながら、最終的には守りたい人のためにヴァンパイアになった。零機関や天満屋さんたちとの日々、そして葵の存在が自己受容に繋がったのだと思う。ルーファスにそういう存在がいたら、ひねくれなかったのかもしれない。
MARS REDの登場人物は丁寧に編まれているので、ヒール役も魅力的だ。そもそもこの作品の悪役は、人の悪意だと思う。争いの原因は、ヴァンパイアそのものではなく、理解と受容のない人間がいることだ。2013年から企画が走りながら、2021年にアニメ放送のタイミングになったのは、今の時代背景と合っていて不思議なものだ。
現代でもヴァンパイアとして括っている存在がいるのだろう。
弱きもの、汝の名は
全ての人が、陽のあたる場所へ。