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左利き用の缶切りは防災用バッグに入れる

左ききの道具店で「三徳缶切り」を買った。

おなじみの缶切りに、シンプルな「HIDARI」のロゴ。機能美が際立つおしゃれなデザインである。

缶切りは使う方向が決まっており、左利きだとしても、右手で持って使わなくてはいけない。使えないこともないが、利き手じゃないので力が入りにくい。こちらの缶切りは左手で持って使えるのだ。

缶切りなんてしばらく使っていなかったから、練習してみようと思う。

※ここから東日本大震災の話を含みます。災害時の直接表現はありませんが、震災関連の話が苦手な方は、ブラウザバックしてください。

夕ご飯のツナ缶が開けられない

プルタブ式の缶詰が増えた今、缶切りなんて必要なの?と思いの方もいるだろう。左利きである私は、人生で1回だけ、本気で左利き用の缶切りが欲しくなったことがある。

東日本大震災である。

当時、沿岸沿いから離れた場所に住んでいたものの、津波の被害が大きく、自宅も浸水被害にあった。そのため、家族で近くの学校に避難することとなる。

混乱が続くなか、避難運営は教職員の皆さんだけでは当然手が回らないため、避難者の中から「食事係」を募る。

当時の避難状況は、学校の教室に何家族かごとに集まっていた。

避難初期の食事分配方法は、以下のように行われた。
市役所職員の方が、避難所ごとに分けられた食事を運ぶ。
教職員の方が、教室ごとに分けて体育館で配給する。
教室代表の食事係が、分けられた食事を持っていく。

ガス・電気・水道のすべてのライフラインが途絶え、そのうえ自宅に浸水した水が一向に引かなかった。私は自宅を片付けることもできず、日中ぼーっとしている。何もできないのは辛いから、私は食事係に名乗りを挙げた。

「今日の夕ご飯はなんだろう?」

食事係として、受け取ったものは業務用ツナ缶1kg
顔ぐらいある大きな缶詰に私はおどろいた。

と同時に気掛かりな点が3つ出てくる。

  1. 缶切りがない

  2. 分けるための器がない

  3. 顔ほどの直径がある缶詰を、缶切りで開けたことがない
    おそらく、左利きの私は安定して開けられない

「缶切り誰か貸してくれるかな……というか何に分ければいいの?缶詰は(右利きの)親に開けてもらおう」

私はツナ缶を抱えクラスに帰り、避難している方に尋ねる。
「今回の食事はツナ缶です。ですが、缶切りと分けるための器がありませんでした。申し訳ないのですが、どなたか缶切りを貸してもらえませんか?器になるようなものをいただけないでしょうか?」

幸いにも、親切な1組のご家族が缶切りとおかずカップを提供してくれた。その上、「(使い慣れた缶切りを)慣れた人が開けた方がいいでしょう?」とツナ缶を開けてもらった。

すべての気掛かりを解決してもらって、ホッとする私。あの時は、こうした助け合いに、ずいぶん救われたものだ。

※大前提として、私の避難先は食料供給に恵まれており、避難直後からなんらかの食べ物をいただけたのは、感謝しかない。避難場所によっては、充分に食料が配給されない場合もあることを後々知った。

また、このツナ缶は本来は商品として売られるはずのもので、企業のご厚意でいただいている。地元の果物店や銘菓、水産加工品…震災直後は、企業も被災しているにもかかわらず、支援してくれていた。

コロナ渦中で感じた、避難準備の考え

2022年現在、未曾有のウイルスが流行し、防災や避難について改めて考えなくてはいけなくなった。

例えば、新たなウイルスが流行し、基本的対処方針がわからないときに被災したとしよう。食材のシェアが難しい状況に陥る可能性は0じゃない。2011年のように、みんなで助け合いづらい状況もあるだろう。

また、私の夫は、災害時には現場に向かわなくてはいけない職種である。そうなると、私は3歳の息子を連れて二人で避難することになる。

そのとき、プルタブのない缶詰が出てきたら?
防災準備が見直されたとはいえ、本当の災害時、とくに避難直後はどんな食事が出てくるかわからない。

もちろん、新型ウイルスが流行っている状況でも、他の人に缶詰を開けてもらうことはできる。でも、息子をなるべく安全に守るなら、自分で開けるのがベストだろう。

緊急時だからこそ、なるべくベストを尽くしたいと思うのは、自分が親になったからだ。守らなければいけないものができた。あくまで、一個人の意見として参考にして欲しい。

私は防災用バッグに、左利き用の缶切りを入れる。
おしゃれな缶切りが、その役目を果たさないように願いながら。

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私が左ききの道具店さんを知ったのは、「左ききの手帳」がきっかけ。

震災時の記録はこちら。こちらは直接描写を含みます。


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