小1、歯科検診に引っかかって矯正を受けた。
小学1年生の学校歯科検診に引っかかった。
所見は「反対咬合」。
下の歯が上の歯よりも前に出る「下顎前突」、いわゆる「受け口」だった。
何もわからないまま歯科医院に連れて行かれ、あれよあれよという間に矯正治療が始まった。初めて入ったレントゲン室の暗さと閉塞感が異様に怖かったことと、やたら歯の写真を撮られたことだけを覚えている。
母と2人で面接室のような部屋に通されると、医師は私に聞いた。
「長い間歯医者さんに来ることになるけど、頑張れる?」
何も知らない6歳の私は「うん!」と無邪気に答えたのだった。
治療中のことはあまりよく覚えていないが、マウスピースを毎日つけ、定期的に歯科医院に行って型を取ったりレントゲンを撮影したりした。小学校低学年にして、入れ歯洗浄剤デビューをした。マウスピースを洗うためである。歯磨きが甘いと毎回注意された記憶もある。経過観察を含めて全てが終わった時には、私はもうすぐ高校生になろうとしていた。
高校生になって、歯列矯正には高額な費用がかかることを知った。しかも、原則として保険適用外だという。私は自分の歯列矯正にいくらかかったのかを知らない。決して裕福な家庭ではなかったにもかかわらず、金銭面を一切匂わせることなく当然のように治療を受けさせてくれた両親には感謝しかない。
受け口を放置すると、見た目だけでなく発音や咀嚼に問題が生じることがあるという。
もしあの時矯正を受けていなかったら。話すことも、食べることも楽しくない生活とはどれほど味気ないものだろうか。
歯並びの治療だけでなく、副次的なメリットもあった。定期的に歯科医院に行く習慣がついていたことで、クリーニングなどのプロフェッショナルケアも無理なく継続できていたことだ。経過観察が終わっても半年に一度の定期検診に通っていたが、転居をきっかけに新たなかかりつけ医を見つけられず、歯科医院に通う習慣を失ってしまった。
新しい土地ではどこの歯科医院に行ったらいいのか全く見当がつかない。そもそも、近隣の歯科医院がどこにあるのかもよくわからない。その上、自覚症状もないのに初診の予約の電話をかけるのはなんだか敷居が高い。
頭の片隅では「定期的にクリーニングとかしてもらったほうがいいのはわかっているんだけどな…」と思いつつも、セルフブラッシング頼みの生活を続けてしまっている。
それでも、定期的に口腔内のメンテナンスを受けていたことで、多少なりとも口腔の健康に気を配って生活することができているように思う。そうでなければデンタルフロスもフッ素ジェルも常備していないだろう。子どもの頃に使っていた歯垢をピンク色に染める液は、大人になった今でも時々使っている。
私にとって、歯科検診で指摘を受けてすぐに矯正治療を受けさせてもらったことは、紛れもない「投歯」だった。それは単に歯並びの治療だけでなく、口腔の健康への意識レベルを高めるという意味でもあった。
令和6年6月より、学校歯科健診で歯列・咬合の異常を指摘された場合、初診相談と検査診断が保険適用となったという。
「投歯」は決して大人だけの話ではない。子どもの頃から「投歯」を続けることが、将来の歯産価値を高める上では当然ながら重要である。
見た目だけでなく、食べる楽しみ、会話する楽しみも守られる。
学校歯科検診をきっかけに受けた矯正治療が、人生の彩りを守ってくれた。
今回の改正を契機に、子どもへの「投歯」のハードルが少しでも低くなればと願うばかりである。