高級な孤独のグルメ
高級海苔をもらった。
会社のオエライさんがもらっていたものだが引き取り手がなく自分に回ってきたのだ。
それをいよいよ、開封して食べたいと思う。
なにせ高級な海苔だ、失礼のないようココロして臨まなくてはならない。
醤油もいい醤油を買ってきた。(スーパーで売ってる綾瀬はるかのやつだけど)
お米はいま家にあるものになってしまうが、奮発して買った象印圧力IH「炎舞焚き」だから炊き立てなら勝負できるだろう。煉獄さんの名セリフが思いおこされる。
居住まいをただす。なにせ皇室御用達の会社で作っている海苔なのだ。
あの方々を身近に感じる。
小室ケイくんは元気だろうか。
いざ、開封。
缶のシールをくるくるほどいて、ふたを抜く。空気がつまっていて抜きづらい。
期待したポン!という音はならなかった。
高級な海苔は高級な和紙を模した高級な小袋に包まれている。
浦島太郎の絵は書かれていない。
袋をやぶって一枚箸でつまんでみる。小市民の海苔より少し厚みがある、
気がする。
口に近づけると、小市民の海苔より磯の香りが強く、かつ上品さを感じる、
気がする。
口の中ではかなく割れるパリっとした音もよりさわやかに響く、
気がする。
そして味は…
海だ、海を感じる。
穏やかに晴れた午後、ここ長崎県有明では海原に網が広がっている。
潮のにおいがきついが、海苔網からはアミノ酸そのものの香りまでしてきそうだ。
昼休みなのか岸の加工場では、陽だまりでおばさんたちがいつも通りおしゃべりに夢中になっている。
だれの子どもだろう、幼児は一人遊びになれているのか、枝で何かをつつきまわしている。おやおや、なにかの拍子に尻もちをついて泣き出してしまった。
空にはシギやカモメの群れけたたましく鳴きながらが大きくなったり分かれたりしている…
(海苔の生産を知らないのですべてイメージです。シギなんて見たことありません)
美味しい。
炊き立てのご飯に海苔はやっぱり美味しい。
いや誠に失礼、高級な海苔はいつもとは比較にならなく美味しい。
なにせ高級品なのだ。
自分のなかに「高級」が入ってくるのがわかる。
自分のなかに「高級」が浸透していき、自分の血肉が高級になっていくのだ。
高級なものだけを口にし、高級なものを身にまとい、高級なものに囲まれた生活。
低級なものとの違いがたちどころに分かり、格付けチェックは間違えようがない男。
もう低級な振る舞いはしない。
同僚の欠勤を仮病じゃないかと疑ったりしないし、休日にはちゃんと朝から着替えてシーツやバスタオルも毎日洗い、スーパーのお惣菜の半額シールが貼られるのを待ったりしない。
内面も高級で、
いつも世界の平和を祈り、
未来の子供たちのためにいま何ができるかを常に考えている。
右の頬をぶたれたら左の頬を出し、
プーチンすら改心させられる高潔な人間。
決シテ瞋ラズイツモシヅカニワラッテヰル、
サウイフモノニ私ハナリタイ。
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俺はいま、10年前に書いた自分のnoteを読み返していた。
世界に7つある別荘の、なかでも特にお気に入りの家具でそろえた書斎の、
床から天井まで広がる大きな窓からは有明海ではなくエーゲ海のブルーが広がっている。
プライベートソムリエがシャンパンを持ってくるまで、ソファに身をしずめて目をつぶる。
俺が高級な人間になれたのかどうかは分からない。
でも本当に良かったと思う。
10年前のあの日、あの海苔を食べておいて。
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