![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63870984/rectangle_large_type_2_e4c166b923b9706d025cad196c9bc180.jpeg?width=1200)
『シンデレラ伯爵家の靴箱館』シリーズ感想
仲村つばき先生の小説をいろいろと読んできて、やはり代表作でもあるシリーズも読んでおかなくちゃと思い手に取りました。
読んでみると、確かに先生ご自身がSpaceでおっしゃっていたとおり、廃墟シリーズと先生の他の小説ではけっこう毛色が違うかもしれないと感じました。
積み上げてきた実績や、読者に期待されているであろう路線があるなかで、それでも書きたいものにトライする先生の姿勢がすばらしいなと個人的に感じました。廃墟シリーズのほうがストーリーに重厚感や危うさがありますね。それ以外の作品はもう少しコミカルな雰囲気があるかなという印象です。
ただ、私自身としては廃墟シリーズも他の小説も好きでしたし、ちょっと物語の構図や表現がちがうだけで作品の本質はそう大きく違わないような気はしています。仲村先生の作品の共通項としては女性の自己実現とか、社会的活躍と私的幸福の両立というような言葉で表現してもいいのかなと思います。
それは少女小説自体のテーマといってもいいと思いますが。だから仲村先生の物語の文脈って、私には非常に馴染みがよいものです。
主人公のエデルが靴職人という夢と、好きな人と結ばれるという恋をともに実現する話であるというのは1巻から感じられましたが、やっぱり主人公に仕事に対するひたむきさを感じられるところが本作の魅力だと思います。これまで人付き合いがうまくいかなかったために引っ込み思案な性格に育った主人公が、仕事のことになると集中力を発揮して、仕事への誠実さをとおして仲間に認められるようになるっていうのはすごく共感するところです。
私も子供の頃は学校でも家庭でもうまくふるまえず毎日凹んでましたけど、仕事を頑張れば頑張るほど仲間に認められていくのが嬉しくて、お客様が喜んでくださるのが嬉しくて、ますます頑張ろうと思えるので。
本作を読むと、靴のことを考えるだけでなんだか気持ちが浮き立ってきます。普段の私はスニーカーばかりですけど、きれいな靴がいっぱい登場するので、新しい靴を買いに出かけたくなるし、新しい靴を買ったらどこかにでかけたくなるようなお話だと思います。
恋愛はコメディ色強めのラブコメって感じで可愛かったし、身分違いの要素をファンタジー要素をまじえて重くなりすぎず、軽快に飛び越えていく話運びが楽しかったです。
童話要素とか、ちょっとファンタスティックな要素もあって、毎回いろいろな想いを抱えた人物が登場するし、彼らの状況も人それぞれですごく面白かった。年齢も身分も悩みもそれぞれかなり違っていて……。父親の身勝手さとか、主人公との距離感も面白い。
仲村先生の人間描写の巧みさはすばらしいと思います。結構悪いやつは容赦なく悪いかと思いきや、意外と憎めない人もいたりして。生っぽい感じの人もいれば、アランのようにわりと漫画的な人もいたりして。さまざまな人のいろいろな表情が楽しめて、7冊読んでもまるで飽きませんでした。