桃太郎で学ぶベンチャー企業のファイナンス 「桃CFO太郎」
※全部無料で読める記事です。
こんにちは、もひもひです。
「中学生が40日間でベンチャー企業のCFOを目指す」シリーズ、今日が24日目です。ここまでの23日間で4冊の本を読了した、ということで今日は、前半編のまとめをします。「大抵の喩え話は桃太郎にしておけばいい」と聞いたことがあるので、桃太郎にします。
それでは、聞いてください。令和むかし話で、「桃CFO太郎」。
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昔々あるところに、おじいさんとお婆さんがいました。2人は多額の資産を保有し、エンジェル投資家としても知られていました。
ある日、おじいさんとお婆さんが2人で川へ洗濯に行きました。すると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃(シード・フェーズ)が流れてきました。2人が持ち帰り桃を割ると、中から桃太郎が誕生。桃太郎は、鬼が村民から搾取を繰り返す現状に強い課題意識を持ち、株式会社鬼退治を創業。「鬼と村民の利益構造を再定義する」というmissionと「鬼が思わず財宝を返還するような、強い実力を保有する会社になる」というvisionを策定しました。しかし、桃太郎はまだ赤ん坊。鬼退治できるようになるには衣食住の支援が必要です。一方、おじいさんとお婆さんは、縁もゆかりもない赤ん坊に無償で世話をする道理もありません。そこで、いつか桃太郎が大きくなり鬼退治を果たしIPOをすることを期待し、資金を投下する代わりに株式を保有することにしました。これが第1回第三者割当増資(エンジェル・ラウンド)です。
出資にあたっては、現在の株式会社鬼退治の企業価値を評価する必要があります。評価の方法としては
・純資産法(桃太郎が手持ちの100円を企業価値として評価)
・類似企業比準法(1個200円の桃が100個分くらいのサイズだから2万円と評価)
・DCF法(5年後に10分の1くらいの確率で1億稼ぎそうだから、先のことはよく分からないので割り引いて500万円と評価)
などがありましたが、ここではDCF法を用い、今の桃太郎1人だけの株式会社鬼退治の企業価値は500万円と評価(プレ・マネー)。お婆さんが500万円を出資することで、投資後の企業価値は1000万円。1株100万円とし、桃太郎とお婆さんが5株ずつ保有。50%ずつの持分比率となりました。
出資を受けた500万円を切り崩しながら、桃太郎はスクスクと大きくなりました。
ある日、桃太郎は鬼ヶ島への渡航を計画し、必要な準備を始めました。旅の途中で、敏腕エンジニアであるイヌに出会いました。桃太郎は、イヌをCTOとして迎え入れたいと考えました。イヌも「鬼を退治する」という桃太郎のvisionに共鳴しましたが、本来であれば相当な報酬を弾まないとジョインの難しい敏腕エンジニアでした。そこでイヌは、「お腰に付けたストックオプションを1個(単位は個が正しい)くれればお供します」と言いました。ストックオプションを行使した際のキャピタルゲインはイヌに参画させるに十分に見えましたし、桃太郎もまたイヌを鬼退治にコミットさせることができる点で魅力的な話でした。ストックオプションの付与を通じて、イヌは桃太郎のお供になりました。
ただ、鬼ヶ島があるのは荒れ狂う「ダーウィンの海」のその先。渡るには頑丈な船が必要です。そのためにはお金が5000万円必要でしたし、その金額はお婆さん1人に支払えるものではありませんでした。
そして、今度はモンキー・投資事業有限責任組合(サルLPS)に出会いました。鬼ヶ島に眠る財宝は、勝者総取り。1番早く島に着かないと勝ち目はありません。敏腕CTOのイヌを仲間にした株式会社鬼退治は、サルLPSが鬼退治業界で勝者と認めるに足る唯一無二の存在に見え、株式会社鬼退治への出資を検討します。
出資にあたっては、お婆さんの出資時と同様、株式会社鬼退治の企業価値の評価が必要です。ただサルにとって、鬼ヶ島の財宝がどのくらいあるのかはぶっちゃけよく分かりません。桃太郎はピッチで「たぶん4億はある」と胸を張っていますが、根拠に乏しく眉唾ものです。サルとしては4億ある気もしますが、2億くらいの気もします。すると、桃太郎が保有するのと同じ「普通株式」で出資をするとすると、最悪「5000万円を出資して、成功したら2億円を桃太郎・婆さん・サルで山分けだ」となる訳ですから、最低でも25%の持分比率がないとペイしません。さらに、鬼ヶ島に無事に渡れる確率が半々くらいですから、50%の持分比率がないとペイしない訳です。桃太郎としては、50%もサルに持分比率を保有されては(桃太郎20%・イヌ5%・婆さん25%・サル50%)、体を張った割に分け前が少なすぎます。そこで、サルLPSには、「もし想定より財宝が少なかったときに優先的に残余財産が分配される」特典の付いた、「優先株式」を発行することにしました。これは、見込みの下限である2億円に近いときはサルへの分配が優先的にされ、上限である4億円に近付くほど普通株主である桃太郎(やイヌ)の分配比率が高まるよう傾斜がつくことになります。1番頑張るのは桃太郎(やイヌ)自身なのですから、とても理想的なインセンティブ設計だと言えます。
そうして第2回第三者割当増資(シリーズA)が実現。株式会社鬼退治は5000万円の資金調達に成功し、シリーズAになりました。
この際、サルLPSは、「財宝が2億円だった場合も優先的に自分に分配されるのだ」という安心を含め、プレ・マネー(投資前企業価値)を2.5億円と評価。5000万円を出資したので、ポスト・マネーは3億円。持分比率は桃太郎33.3%・イヌ8.3%・婆さん41.6%・サル16.6%となりました。つまり、優先株式の発行により、サルに取られる持分比率を大幅に下げたまま資金調達に成功したことになります。ここで特筆すべきは、サルはあくまで「優先株式」だったからこの金額で企業価値を評価したということ。つまりは、企業価値はサル自身も「今、この企業に2.5億円の価値がある」と思っている訳ではなく、最後の分け前を算定するときの取り決めにすぎないのだ、というのが重要な点です。
そして、サルから調達した資金を元にようやく船が完成。あとは船に乗せる武器を調達するのみとなりました。
そこで第3回第三者割当増資を検討し、キジLPSとの交渉が始まります。ただ、交渉は難儀を極めます。現時点で桃太郎の持分比率は33.3%。キジが出資するとさらに比率は下がります(これを希薄化といいます)。一度薄まった株式はもう(ほぼ)戻らないので、果たして財宝を手にしても3割くらいしか手元に戻らない桃太郎が、命懸けで戦うことができるのか、という疑問が残ります。このタイミングで、「鬼滅」ブームに乗じ鬼ヶ島への出陣を目論んでいた大手企業が、「ええ船待ってるやんけ、会社ごと売却してくれれば5億で買うで」と持ち掛けました。5億円とは、見込んでいた鬼ヶ島の財宝よりも多い金額。これがノーリスクで入るわけです。こうすれば桃太郎には1.6億入りますし、5000万円出資したサルもすぐに8300万円になって返ってくるので悪い話ではありません。ただ、そこで首を縦に振らなかったのが婆さんです。「私はねえ。あんたが鬼ヶ島に渡って鬼退治するのが見たくて、手塩に掛けて育てたのよ」「そもそも誰があんたを川から拾ってきたの」と激昂。そもそも婆さんは41.6%の議決権を保有しており拒否権を行使しうる立場です。ドラッグ・アロング権も設定していなかったため、婆さんにヘソを曲げられたが最後、桃太郎とイヌとサルの前には使い道のない船だけが残されたのでした。
桃太郎は、何がいけなかったのでしょうか。
それは、生まれた直後、赤ん坊の頃で右も左も分からなかったとは言え、婆さんに持分比率を取られすぎたこと。資本政策は、早い段階でミスると取り返しがつかない訳で、最初ほど慎重に、例えばサルからの出資時に合わせて「優先株式」に転換できる「みなし優先株式」を付与して持分比率を下げておく、などの必要があったのでした。
最後に桃太郎はこう語ります、
「鬼を退治するには、力と強い仲間がいればそれだけで良いと思ってた。自分にはおカネの話はよくわからないからと、目を背けていた。それによって、力も、仲間も、船もあるのに、鬼退治に行けない結果を招いたんです。次はもっとうまくやれると良いなあ」めでたし、めでたし。
以下、参考文献。
読了ありがとうございました。
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