スイミングのはなし
私はかなりの感動体質だが
義母の介護に追われていた2019年ころ どんなに美しく素晴らしいものに触れてもあまり心が動かなくなって
「これはやばい」と焦りながらもなんとか日常をこなしていた。
体力低下も半端なくて、腰痛や膝の脱臼癖は酷くなるし、2時間1コマのレッスンが終わるともうクタクタ。
寝ても疲れが取れず年々不安を感じていた。
二人の母を見送った後、まずは自分の心身の健康を取り戻そうと決め、水泳を始めることにした。
仕事の合間に短時間で効率よく全身運動ができるのと、徳島との2拠点生活でもっと海と仲良しになりたかったのが水泳を選んだ理由だった。
初プールの日、たった25メートル水中を歩いただけで尋常じゃないくらい息が上がってとてもとても情けなかった。
隣を優雅にクロールで流す70オーバーのお姉さまたちがなんとカッコよく見えたことか。
私はクロールができなかった。
自他共に認める運動神経ゼロの女。
水泳の授業をほぼ100%サボってきたツケがここへきて回ってきたのだ。
当時は「クロールなんて一生できなくてもいいもん」なんて思っていたのに
お姉さまたちのように優雅なクロールで泳ぎたい!
ここから私の独学クロール練習が始まる。
スイミングのコーチに習ってもよかったが
「逆上がりできた!」
「自転車に乗れた!」
「跳び箱7段跳べた!」
みたいな一生に一度の感動をこの年齢でもう一度味わえるチャンスだと思った。
私はものごとを習得するのにものすごく時間がかかる。
何年かかってもいいから、少しずつ泳ぎを自分のものにする感覚を身につけてみたいと思った。
(編み物も似ていますね)
とりあえず図書館でドラえもんが泳ぎを教えてくれる子供向けの水泳の本を借りて読んでみたが、全くわからない。
youtubeで検索すると、一流スイマーが練習方法を丁寧に教えてくれる動画がいくらでもあるではないか。
私が一番しっくりきたのは
「トモキン水泳教室」
トモキン先生が人形を使って楽しく泳ぎを教えてくれる動画を見て練習を始めた。
最初は酷いものだった。
バタ足しても全く前に進まずぶくぶく沈んでいく
全身に力が入り過ぎてプールから上がると身体のあちこちが痛い
手と足のタイミングが合わない
首がうまく回せず息つぎができない
それでも水から上がった後の
けだるい疲労感がなんとも心地よくて
プール通いが楽しくなっていき
ある時ついに
「あれ?私クロールできてる?」
という日がやってきた。
今では身体が勝手に動いてゆっくりと1キロ泳げるようになった。
全身に筋肉がついて体温が上がったのと口から息を吸い鼻から吐いて呼吸が整うため長年の鼻炎が解消した。
マーチンのブーツが重くない。
腕を回すので肩凝りも解消。
下腹の肉は取れないけどうっすら腹筋が割れてきた。
体力と抵抗力がついて疲れにくくなった。
一番良かったのは泳いでいるとメンタルが整って考えがまとまること。
清潔で安全な温水プールで
誰とも争わず自分のペースで
25メートル行ったり来たりを
ただ繰り返すだけ。
飽きたらゆっくりと背泳ぎ。
晴れた日はプールの天井に映る水面が
キラキラ揺れてとても美しい。
自分が小さな舟になったみたいだ。
水の中は静かでぶくぶくと浮かぶ
自分の息の泡を眺めながら
ただ呼吸して手足を動かして進んでいくだけ。
頭で考える人間である前に、
私は単純にただの生き物だと気づく
魚やカエルとおんなじ。
疲れたり、ちょっと凹むことがあっても
プールへ行くと気持ちよくリセットされる。
何歳まで続くかわからないけど
プールへ行ってマイペースで
1キロ泳げたら
まだまだ私は大丈夫。