使える心理学ツール ACTマトリックス
心理専門職でもありDTMerでもある湊ノドカです。
今回は心理専門職として、誰にでも使える心理学ツールを紹介、解説します。
それがタイトルにあるACTマトリックスです。
ACTマトリックスは、認知行動療法第3の波とも言われるACTの包括的ツールです。治療のためだけではなく、ポジティブ心理学的に健康な人がより充実した生活を送るためにも役立ちます。
まずは、どういう場面で使えるのかをサラッと紹介。
僕らは、たびたび、自分が重要視している人生の方向性からそれていく行動をとってしまいます。
そして後になって、もっとこうしていれば良い結果になったのに…と悔やむのもよくあることですよね。
例えば
自分の将来を考えたら、来週の課題に備えて早めに勉強始めるのがベストなんだろうけど…まだ時間もあるし面倒だしちょっと動画見てからにしようかな…(仕事でも、発表でもなんでも置き換え可です)
創作活動をしてる人であれば、
「新作にとりかかって良い作品を出したい」「他の作品みて勉強もした方が良いかな」など思いつつ…
でも、良い作品作る人と今の自分の差を見せつけられそうでへこむだろうし、今は新作のことは置いといて漫画読んで情報の入力しようかな…
などなど、同じようなパターンはきりがないぐらい僕らの人生にあるはずです。
この記事では「自分が大切にしている人生の方向性に向かって進む行動」を、促進したり、手助けしてくれるツールを紹介します。
この記事だけで完結する内容ですが、以前に書いた記事とも繋がった内容になっています。
確認したい方は以下のリンクをどうぞ。
人生の方向性に迷わない心理学①
https://note.com/mntndk0405/n/n3150f12d98c5
準備について
まずA4ぐらいの紙とペンを準備しましょう。
次に、こんなふうに書いてみます。
そして真ん中の丸に「私」(英語版ではMe)と書きます。
関数を書くグラフのような4つの象現ができるため、この手法は ACT Matrixと呼ばれています。
あとは各マトリックスに必要なことを書き込むだけです。
ちゃちゃっと適当に書くと、役に立たないものが出来てしまいます。
ちょっと面倒だけど、自分自身をしっかり見つめつつ書いてみましょう。
そうすれば、あなたにとってかなり役立つ助っ人ができるはずです。
あなたが大事にしていること=「価値」
(右下のマトリックス)
最初に書くのは右下のマトリックスです。
ここにあなたが大切にしている人や事柄、大切にしている方向性などについて書きます。これらのことをまとめて「価値」という名前で呼びます。
以前の記事を読んでいただいた方、そのときの「価値」とほぼイコールだと理解してもらって大丈夫です。
「大切な人」は、特定の友人関係かもしれないし、家族かもしれないし、あなたの大切な「推し」かもしれません。
意外と「自分」が忘れられがちですが、あなたにとって「自分」も大切な人に含まれるのであれば、「自分」も書き足しましょう。
「大切な事柄」は、あなたにとって、それをしていること自体が充実になるものを書きましょう。
音楽、絵、イラスト、文芸、漫画、映画、写真、などが大事であればそれを書きましょう。
サッカー、野球、テニス、ランニング、ゴルフ、などももちろん含まれます。その競技をして充実を感じる場合は勿論ですが、観戦や普及などそれらの文化に関わることが充実する場合も含まれます。あなたにとって大切なものを書き込みましょう。
ファッションに興味をもっている人であれば、気に入った服を着ることが好き、かわいいやカッコイイを見ること/作ることが好き、ファッションという文化自体が好き、いずれも含まれます。これが自分にとって重要だなと感じた方は「ファッション」と書きましょう。
科学(工学でも、電気でも、生物学でも、数学でも…etc.)が好きな人はそれを、車やバイクが好きならそれを書き込みましょう。
「価値」は複数あるのが一般的です。多ければ多いほど良いとは言えませんが、ひとつに絞る必要もありません。いくつか思いついたのであれば、それらを書き込みましょう。
「大切にしている方向性」はいくらか抽象的になります。
あなたが大切にしている、その方向性の行動をとったときに、達成感を得たり、充実を感じるもの、と言えます。
例えば、「人の助けになりたい」「誠実でありたい」「真摯に打ち込みたい」「分け隔てなく人と関わりたい」「優しい人間でありたい」などです。
自分にとって重要な方向性も書き込みましょう。
ここに挙げた例はほんの一部にすぎません。
「価値」は人の数だけあります。
例を参考に自分にとっての重要な事柄を書き込んでみましょう。
記入例はこんな感じです
「価値」につながった具体的な行動
(右上のマトリックス)
次に右上のマトリックスにとりかかります。
ここには右下のマトリックスに書いた「価値」と繋がる、具体的な行動を書きます。
写真の真ん中上辺り、ここに監視カメラがあると想定してください。
上側のマトリックスには、監視カメラでとらえることができる、客観的に観察可能な行動を書き込みます。内面で考えたり感じたりしていることはここに含まれません。
意識していても混ざってしまうことはよくありますので、注意しつついきましょう。
先程の例とつなげて考えてみましょう。
「大切な人」につながる「行動」から考えてみましょう。
大切な友人や家族と仲良く過ごす、悩んでいる友人の相談に乗る、推しへの愛をツイートする、自分自身の健康を維持するために適度な運動をする、などが例として挙げられます。
「大切な事柄」とつながる「行動」も書き込みましょう。
音楽を聴くこと、演奏すること、イラストを描くこと、写真をとりにいくこと、サッカーをすること、野球を見に行くこと、テニスのスイングを練習すること、それらについての最新の知識を知るために本を読む、などです。
仕事や学校の勉強も、自分にとって重要なことであれば、もちろんそれらも入れましょう。
できるだけ具体的にし、尚且つ監視カメラでとらえられることというのも意識しながら書き足していきましょう。
「大切な方向性」とつながる「行動」も同様です。
「人の助けになりたい」という人であれば、困っている人に声をかけて手伝うという「行動」がここに書く内容になるでしょう。
「誠実でありたい」人は、面倒なことでも相手の為に誠意をもって仕事をやり遂げるなどになるでしょうか。
これらの例だとフワッとしすぎているので、さらに具体的に書ければより良いと思います。
「価値」は人の数だけあるので、当然それと繋がった行動はそれ以上に沢山あります。
このセクションでは、右下のマトリックスに書いた「価値」と繋がっている具体的行動が書けていれば、基本的にはOKです。
正しくかけているか分からないときは、実際にその行動に集中して取り組んでみましょう。(とりかかりに面倒さはあるかもしれないけど)やってみて、充実感や達成感を得られていれば、おそらくそれは価値ある行動だと思います。充実するし、達成感もあるし、すごく楽しいと感じられたならば間違いないはずです。
記入例はこんな感じ
内面で邪魔をする何か
(左下のマトリックス)
次にとりかかるのは左下のマトリックスです。
左下のマトリックスで取り組むのは「邪魔するやつ」の把握です。
「邪魔するやつ」にはいろいろな種類があります。
代表的なものは、考え、気持ち(嫌な感覚)です。
それぞれ例を挙げます。
「考え」の例としては次のようなものが挙げられます。
イラストの練習をするときに「でも、すごい作品作る人と今の自分の差を見せつけられそうでへこむだろうな」という考えが浮かんで止めてしまう。
大切な友人と険悪になってしまったとき。仲を修復しようと連絡をとろうとして「謝っても、優しく対応してもらえなかったら嫌だなあ」と考えが浮かび、大切な友人との関係がきれてしまう。
ダイエットを決意して運動にとりくもうとしたけど「どうせ今までも上手くいかなかったし結局自分には無理なんだ」という考えが浮かび、止めてしまう。
こういったものが、あなたの邪魔をする「考え」と言えます。
あなたのなかにしばしば起きる邪魔をする「考え」をみつけ書き込みましょう。
「気持ち」の例は次のようなものが挙げられます。
健康の維持のためにランニングをしようと思っているけど「なんかめんどくさくなってきたなぁ」というときのめんどくさい感じは、あなたを邪魔する「気持ち」のひとつです。
創作をするとき、または仕事で、またはスポーツでより良い結果をだしたいときなど、今までに経験がない新しい方法を試してみようと思い立ったとします。多くの人が「でも不安だなぁ」と感じ二の足を踏むことがあります。このような不安も、あなたの新たなチャレンジを邪魔する「気持ち」のひとつです。
自分にとって重要な進学の為には勉強をする必要があるとします。両親から「もっと勉強しなさい」と叱られたとしたら、イライラする感情が湧いてきて勉強から遠ざかる行動をとりがちです。ですが、この場合では勉強することは、進学の為に必要で、自分にとって重要なことのはずです。こういった場合、自分のなかに湧き上がる「イライラ」も、邪魔する「気持ち」のひとつです。
あなたが価値につながった行動をとるのを邪魔する「気持ち」を見つけ、書き込みましょう。
「気持ち」がどういうことか自分ではよくわからないという方は、こちらのリンクを参照してください。「気持ち」と「嫌な感覚」と合わせて説明しています。
あなたが価値につながる行動(右上マトリックス)をとることを邪魔する「考え」「気持ち」について書ければ、次に進みます。
記入例はこんな感じ(うっかり左上も書いちゃってますが気にしないでください)
邪魔されたときの具体的な行動
(左上のマトリックス)
次にとりかかるのは左上のマトリックスです。
価値ある行動に取りかかろうとしたとき、何かしらの考えや気持ちに邪魔されて出来なかった。まさにそのときの行動を書きます。
自分は、価値ある行動から逸れたとき、どのような具体的行動をしがちなのかを把握しておきます。
非常によくある例が冒頭で書いたものです。
これまでの内容とリンクさせてこの例を見てみましょう。
右下マトリックス:自分が大切にしている将来の目標の為には
右上マトリックス:来週の課題にそなえて勉強をした方がいい
左下マトリックス:そのとき「まだ時間もあるし」という考え、「面倒だ」という気持ちが表れて、あなたの邪魔をします
左上マトリックス:結果的に、自分にとって重要で「価値」がある課題にそなえた勉強ではなく、動画をみるという「価値」から逸れた行動をすることになってしまいます。
左下の邪魔をする何かが表れると、多くの人がこの例のような「価値」からそれる行動、後悔するような行動をとってしまいます。
他にもいくつか例を挙げてみます。
例1
右下:あなたにとっての新たな境地を開拓しようとして
右上:新しい手法のイラストに挑戦しようとしたとき
左下:慣れないことへの不安、億劫さ、やりにくさが表れる
左上:結局、いつも通りのやり方をした。億劫さはなかったけれど、新たな境地の開拓からは遠ざかった。
この場合は「いつも通りのやり方をする」が左上マトリックスに書く内容です。
例2
右下:健康的で魅力的でありたい
右上:ダイエットと身体作りの為にジョギングとジムでのトレーニングをしようとする
左下:でも、慣れないことなので運動すると筋肉痛も起きるし体も怠い、何より面倒で、調子も悪い気がする。
左上:ジョギングもジムに行くのもやめ、ジャンクフードを食べながらネットフリックスを見て過ごした。筋肉痛も面倒さもなかったけれど、健康的で魅力的な自分からは遠ざかった。
この場合は「ジャンクフード食べてネトフリ」が左上に書く内容です。
例を参考に、あなたの邪魔をする考えや気持ちが表れたとき、それから逃れる為にしばしばやってしまう「価値」からそれる行動を、左上のマトリックスに書いてみましょう。
もしかしたらお気づきの人もいるかもしれませんが、左下の「邪魔するやつ」から逃れるため、左上の「価値から逸れた行動」をするというパターンは悪循環になることがとても多いです。
それは「価値から逸れた行動」をしても「邪魔するやつ」から逃れられるのは短時間だけであることと、直面していることの根本的な解決にならないことが理由です。
この悪循環を「ぐるぐるループ」と呼ぶことがあります。
使い方
ACTマトリックスの使い方はとてもシンプルです。
ふとした瞬間、自分に注意を向けて、今自分がしている行動が自分の「価値」につながっているかを確認します。
ACTマトリックスがあることで、自分の今の位置を視覚的に把握することができます。
「価値」につながった時間を過ごしていれば、その調子で人生を進めていきましょう。
「価値」から逸れていっていると感じたならば、一旦自分自身に注意を向けてみましょう。
注意の向け方にもACTマトリックスの図が役に立ちます。
その場に監視カメラがあることを想像し、自分を客観的な視点で見てみます。左上のマトリックスと監視カメラを意識してみましょう。
そして、自分の内面の「邪魔する考え・気持ち」がどんなものかも把握してみましょう。左下のマトリックスを意識してみましょう。
さらに、自分に注意を向けて観察している自分自身がいることにも意識を向けてみましょう。真ん中の〇に書いてある「私(Me)」を意識してみます。行動をしている「私」、考え・気持ちをもっている「私」、それらを観察し気づいている「私」がいることに意識的になってみましょう。
上記の一連の方法で自分の状態を観察することは、左側で起こる「ぐるぐるループ」から少し距離をとることに役立ちます。
一旦ニュートラルに近づいたなら、次は「価値につながる行動」にむけて進んでいきましょう。
シンプルだけど効果的
ACTマトリックスはとても単純なことで「それだけ?」と思ってしまうのも分からなくはないです。ですが、見えないことや感覚的なことが視覚化できるというのはとても大きなことです。
多くの人が仕事で「見える化」ってよく聞いたり言ったりしていると思います。これは「見える」と分かりやすさ、扱いやすさがものすごく上がるからですよね。
ピアノのメロディーを一回聞かされただけだと多くの人は再現できませんが、楽譜という形で見える化されれば再現できる人の数はぐっと増えます
話しをACTマトリックスに戻します…
「価値」や人生の方向性、充実感や達成感なんてフワッとしたものが、パッと見て直感的に分かるというのは、すごく便利なことではないでしょうか。
実際に試してもらわないと実感できないことだと思いますので、気になった方は是非実践してもらえればと思います。
僕自身もこの方法は日常的に使っていたりします。
他にも右上マトリックスにつながりやすくするためのスキルやツールはいろいろありますが、今回は一旦ここまでにしておきます。
今後の記事にご期待ください。
参考文献など
ベンジャミン・ショウエンドルフ先生のACTマトリックスの内容を平易にして、日常生活に当てはめて解説したような感じを目指しました。上手く伝わっていればいいですが。
日本語でのACTマトリックスの書籍はまだないようですが、ACTマトリックスカードというものは日本語版がでているようです。
ACT Matrixの基本的な発想はアクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)に依拠しています。ACTを包括的に扱いやすくするために考え出されたツールのひとつがACT Matrixだったりします。
同じくACTの包括的なツールのひとつに、ラス・ハリス先生が開発したチョイスポイントというものもあります。それはこちらの書籍に掲載されています。
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