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『友人の本棚~1分で読める感想文~』Vol.59「ジャイロスコープ」

「チャンス」についての格言は、たくさんある。
・チャンスの神様は前髪しかない
・チャンスはピンチの顔をしてやってくる
・準備をしたものにだけチャンスは訪れる

いずれにしても、「逃すんじゃないぞ」というメッセージが含まれているけれど、それが事前に分かれば苦労しないし、逃したときに初めて後悔するのだから、チャンスとは何とも意地悪なやつだなと思う。

伊坂幸太郎さんの短編集。この中から僕が気に入った「if」から引用したい。

※ネタバレ含みます。

「何だよ、早く降りろよ」犯人が寄りかかっていた椅子から姿勢を起こし、刃物を男に向ける。
「あ、あの、いや、一言お礼を」男は怯えながらも言った。
「早く降りろ!」
「お礼を」男は構わずに、続けた。「どうもありがとう」
「何だと?」
「挽回のチャンスをくれて、本当にありがとう」

20年前のバスジャックの時に、勇敢に立ち向かえなかった自分とその乗客たち。そこに20年前と同じ犯人が、20年前越しのバスジャック完遂を目指し、偶然同じシチュエーションで乗り込んできた。同じ痛みを抱えた当時の乗客たちと、意を決して犯人に勇敢に立ち向かうシーン。挽回のチャンスをくれてありがとう。これは心からの声だったに違いない。

仕事での失敗は仕事でしか取り返せない。失恋の痛みは、次の恋でしか癒せない。結局のところ、後悔という心の傷は、次の同じチャンスを活かすことでしか実らないのだとしたら、僕たちはもう少し一回一回のチャンスというものに真剣に向き合う必要があるのではないかと思った。

最後にこんな感じで締めくくられている。

山本は必死に犯人を押さえつける。その姿は堂々としており威風すら感じさせた。
今度こそは自分をがっかりさせてはならない。

自分をがっかりさせないこと。自分だけは、自分に期待してあげること。自分を信じてあげること。迷ったら、後悔しない方を選ぶこと。結果がどうあれ、少なくとも自分をがっかりさせないように、僕も日々のできごと、意思決定の場面において、一つ一つ真剣に向き合いたいと思った。


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野見 将之
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