『友人の本棚~1分で読める感想文~』Vol.73「書く力」
「100mを10秒で走れるか?」と聞かれれば即答できる。無理だ、と。
では「人が読みたくなる文章を書けるか?」と聞かれると、もしかすると、と思ってしまう。しかし、それは甘かった。
文章力も、筋力だ。圧倒的にトレーニングが足りない。それを思い知らされた。
読売新聞の編集手帳担当の竹内さんと、分かりやすい解説でお馴染みの池上さんの対談。言葉を扱うプロのこだわりが垣間見え、背筋が伸びるどころか凍った。
将棋の世界に、大山康晴十五世名人という大棋士がいました。「得意な手は何ですか」と問われて、「プロに得意な手なんてありません。得意な手があるならアマチュアです」と答えたという話があるんです。私は、これにギャフンとなりました。言われてみればその通りで、「好きな表現」というのは、自分にとって「便利」だから使ってしまう表現にすぎなくて、その文章にとって最適の表現ではないことも多いんですね。響きが綺麗で、文章が締まるからよく使っているということでもなくて、ただ、自分がラクできるから使っている。ラクをして、いい文章なんて書けるわけがない。
自分の中で好きな言葉や、よく使う表現などは確かにある。しかしそれはあくまで「自分にとって」であって、「読み手にとって」最適であるとは限らない。大山プロの言うように、「場の最善」こそが優先される、それこそがプロ意識なのだと感じた。
一方で、「場の最善」を優先した結果、「自分の好きな言葉」や「よく使う表現」を使い続けることが良い場面もあると思った。例えば、歌手の山下達郎さんはLIVEでは必ず「クリスマスイブ」を歌うのだそうだ。これは「ファンが求めている」からで、「お約束」のようなものでもある。期待を裏切ることが良い場面もあれば、期待に応えることが良い場面もある。どちらも「心意気」が重要なのであって、表現はその心を伝える手段だ。
思えばこの感想文も毎日書いて2か月。メルマガは間もなく3年になる。書けば書くほど書けるようになる、という実感はあるものの、それでもまだまだ上げられるはず。
文章力も走力のように数値化できれば良いのだけど、逆に数値化できないからこそ良いのかもしれない。いずれにせよ、知識のインプットとアウトプットはこれからも毎日続けていこう。
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