広田稔さんに聞く「VTuberビジネス」の今(01)
対談は今回から新シリーズになる。今回からの対談のお相手は、株式会社パノラプロの広田稔さん。実は、本対談連載に出ていただくのは、2016年7月に続き2回目になる。
広田さんは[「PANORA」](https://panora.tokyo/)というメディアを運営している。以前はVR専門のメディアだった。そこで、2016年には「小寺さんに(当時はまだ珍しかった)ガチなVRを体験してもらおう」という企画にご協力いただく方での登場だった。
現在、PANORAは少し方向を変えている。VRも扱っているが、主軸はどちらかといえば「VTuber」だ。PANRAはニュースを扱うと同時に、VTuberイベントの運営などを行う会社になっている。
VTuberはYouTubeやライブ配信で大きなコンテンツになっており、新しい産業になりつつある。だが、熱心に見ているファンでなければ、状況をちゃんと把握している人はいないだろう。
筆者は映像配信やVRなどについては、多少なりとも知見があると思っている。だが、VTuberについてはよくわからないままだ。
そこで広田さんに、この市場がどうなっているのか、どんな風に彼ら・彼女らがファンとの関係を築いているのかを聞いた。(全5回予定)
なお、初回分は無料公開されるが、2回目以降はnoteでの都度課金もしくは月額制マガジン「小寺・西田のコラムビュッフェ」ご購読が必要になる。
■VTuberはどう生まれたのか
西田:ご無沙汰してます。というわけで、今回お願いしようと思ったのが、VTuber関係って、よくわかんないですよ。
広田:はははは(笑)。
西田:もちろん、通り一辺倒のことは知ってますけど。極めて盛り上がってることもよくわかってるわけです。
で、ビジネスがどうなってるかっていうのが、正直わからん。そうした時に、広田さんが、ピポットというとあれですけど、VRメディアから、どっちかっていうと――
広田:両方やってはいるけど。
西田:やってはいるけど(笑)、今のPANORAでは、VTuber系のメディアでありつつ、イベントだとか、そういったことをやってるじゃないですか。
僕も、近しい世界はよく知ってはいるわけだけど、個人的にあまり興味がない……って言葉が悪いな。
広田:ははははは(笑)。いや、まあ、気持ちはわかります。すごく。
西田:昔から、オタクなんだけど、美少女ものにあまり興味がなくて。
なので、ニュースとしてはわかってるけども、シーンがどうなってるかってさっぱりわかんないわけです。でも、今や、YouTubeでのいわゆる動画クリエイター周りだとか、ライブだとか、その辺を考える場合、VTuberを外しては語れなくなってる。
今回は、おじさんのために、VTuber周りがどうなってるかを教えてもらおう、というのがきっかけです。お願いします。
広田:はいはい。どこから話すといいんですかね。まあ、始まりのあたりから。
西田:そうですよね。はい。
広田:VTuberって、なんか突然バっと現れたような感じですけど、前段として、多分アニメみたいのをモーションキャプチャーを使って生でやろう、みたいな人たちがいて。
それが2010年代とかかな、インターネットで、ニコニコ動画でMMD(MikuMikuDance)とかが盛り上がって。3Dって、コンピューターの歴史を見ると、2000年代頃にも、ずっと趣味としてあったわけじゃないですか。例えば六角大王だったりとかShadeだったりとか。
西田:ありましたね。いわゆる美少女を作りたい、という。
広田:そうそうそう。自分のオリジナルキャラだったり、自分の好きなキャラを自分の手で、ファンメイドで作りたいみたいな欲求がやっぱりあった。
西田:そうですよね。2Dでペインティングする、というのがある一方で、で、2Dのペインティングの能力がないとか、アニメとして動かしたい人が3Dで、というのがあったわけじゃないですか。
広田:それが、ニコニコ動画が出てきたことによって、MMDという、要するにUnityのアセットストアじゃないですけども、自分が作らなくても、誰かが作った3Dデータを使って遊べるみたいな状況ができた。しかも発表できて、自分のオリジナルの世界を動画としてパッケージして、作ったものを誰かに見てもらって、コメントがもらえて、盛り上がれる、というような状況ができたという。
そういうファンメイドの世界がありつつも、アニメーションを「生」で動かす面白さみたいな人たちもいて。
西田:ああ、リアルタイムでモーションキャプチャーを使ってライブで動かしたい、という……。
広田:リアルタイムモーションキャプチャーと、多分、すごく歴史が関わってくるんですよね。テクノロジー的な話で言うと。
西田:ああー、はいはい。
広田:まあ、モーションキャプチャーとかで生アニメを作ってたんですけど、まあまあコストがやっぱりかかるわけですよね。
そこにたまたま、2016年前後、2013年から2018年ぐらいとかですかね。VRの機器が出てきた。
注目されたのはNeuron(ニューロン)ですね。NOITOMのNeuronという、当時、日本だと20万円ぐらいで売られたモーションキャプチャーとかが出てきて。
これで、今まで数千万とかかかってた、スタジオ借りるだけで1日数百万とかかかってたやつが、「20万ぐらいとかでできちゃうみたいだよ」みたいな感じ。
で、みんな始めた……という経緯が2016、17年ぐらいにあります。
西田:はい。
広田:そこに出てきたのが『キズナアイ』。あれを見て、みんな、「あ、これでできるんじゃん」みたいな感じになって。技術的には結構ハードルがそんなに高くないんだな、と思ってみんなが参入したのが2017年ぐらいです。
■ネットタレント化と「コラボ」
西田:そこまではほんわりわかってるわけですよ。
問題なのは、じゃあ、それがどんなふうにビジネスになっていったのか。
気が付いたらいろんなところで、3DじゃないVTuberが増えていった。当たり前のようにキャラクターを作って、配信する、というのが増えている。
しかもそのキャラクターでライブでやって、といった産業が、気が付いてみるとめっちゃ大きくなってた。
2017年からこっち、たかだか5、6年の間に何が起きたのかよくわからないんです。
広田:ああー、なるほどなるほど。
最初は、さっき言ったように、「3Dでフルボディトラッキングのほうが、VTuberらしくて新しい表現だ」みたいな話をしてたんです。
でも結局、最終的にビジネス的にフィットしたのは、キャラクターの姿で長時間生配信をやって、ユーザーとの接点をすごく増やして、すごく親近感を高めていく……みたいな戦略。そのほうが最終的には強かった。3Dの身体で動画を作って、というよりも、2Dの画像を表情に合わせて変形させる「Live2D」的な技術の方が、コストが安かったんですよね。Live2DならiPhoneとかを使ってフェイシャルだけキャプチャーできれば面白さが出せる、みたいな感じです。
人間の表情の面白さってもちろんあるんですけど、多分、デフォルメされたキャラクターとしての表情の面白さみたいなものがやっぱりVTuberにはあって。例えば、「このゲームのこのタイミングでこういう表情をするんだ」というのがすごく面白かったりとか、それが話術やキャラクターの設定とかと相まって、独自の面白さを生み出した。それをライブで見てることの面白さみたいなのを、どんどんどんどん体験として作り出していった、という部分が多分あると思うんですよ。
で、それぞれのキャラクターが一緒にやる、みたいな「コラボレーション」をすることによって、面白さが拡大していく。
――だから、普通のタレントみたいな感じですよね、結局。ネットタレントと同じです。
西田:そこで1つ、シンプルな疑問があって。
僕も、2017年ぐらいまでに、ちゃんとモデルを作って、パーソナルなモーションキャプチャー、もしくは、モーションキャプチャーまでいかなくても、HMDの首の動き+ハンドコントロールみたいなので、3Dで人間を再現して、それをキャラクターとして生の演者の代わりに使いましょう、という動きはわかってる。
「そういうのをたくさん作ろう!」という動きが、1回ガーッと盛り上がりましたよね。
広田:そうですね、盛り上がりました。
西田:パッと気が付いてみると、その路線を追っかけてる人って、本当に金を持ってて、売れる人たちだけ。そうじゃない、2Dのキャラクターというのが増えていったわけですよね。そういう2Dのキャラクターでの配信というのがちゃんとリクープできる、という。
まあ、2Dならお金がかかんないってのもあるんだけど、「配信をすることによってお金が儲かる」という時代ができてて、さらにはそれが人気になれば、キャラクターとしてある意味独り立ちして、いろんな形でコラボレーションができるようにまでなってるわけじゃないですか。
リアルイベントも開催されて、バーチャルで日常的にイベントをやってて、という形になっている。
広田:うんうん。
西田:問題なのは、2017年の、「なんか金がかかるけどすごいことができるぞ」というところから、もっとカジュアルなものも含めて、一気に拡散した上で、市場がでかくなった。
広田:そうですね。
西田:この2、3年ぐらい、2020年ぐらいには一応キャッチアップして、「あ、なんか起きてるみたいだぞ」って把握はしてるわけですけど、その3年間ぐらいの間に何が起きて、で、その中に例えば「にじさんじ」であるとか、いろんなプレイヤーがいるわけじゃないですか。どういうプレイヤーがいて、どうビジネスが広がったのか、という状況がさっぱりわからなくなってしまったわけです。
広田:それで言うと、最初はピンでみんなやってたんですよ。
それが、グループでやることの効果がすごく大きくなった。
『.LIVE(どっとライブ)』さんというグループがあるんですね。『電脳少女シロ』ちゃんとか、最初に四天王と呼ばれてた方の中の1人の子のグループで、アップランドさんという最近MBSグループに買収された会社なんですけども。
その中に「アイドル部」というのがありまして、12人ぐらいの女の子をデビューさせて、その中でタイムテーブルとかを組んで配信をずっとやる、みたいなことをやってたんです。
で、「この子とこの子の配信を見てれば、箱の全体の雰囲気がわかって良い」みたいな、一時期そういう潮流があったんですよね。
「アイドル部」自体は、有名な子が辞めちゃったりとか、いろいろあったんですけど、その後に、「ホロライブ」も、どんどん○期生、○期生みたいな形で展開したんです。「にじさんじ」のほうは毎月デビューさせる、みたいなのを2018年、19年とかやってたりして、すごく数を増やしたんです。
すごい数のVTuberがデビューしていくわけですけど、なんて言うんだろう、要するに「多様性」じゃないですかね。AKBとかも多分そうだと思うんですけども――あんまり俺はアイドル詳しくないんでわかんないんですが、いろいろある中の、「あ、この子こういうので自分の好みかもしれない」という子が見つけやすい状態が多分できたんですよ。
で、その子が箱の中でコラボしたりとかで、わりと――なんて言うんだろうな、箱自体を見やすいような環境を企業側で提供するようになってきた。その箱の中で、関係性じゃないですけど、関係性オタクみたいな人たちも結構いたりして。「なんとかとなんとかの関係が」みたいに見てたりする人たちもいたり。○期生同士のなんとかだったり、なんとかのデビュー組のなんとかのつながりだったりとか。
西田:プロレスで言うところのマッチアップみたいなもの?
広田:はははは(笑)。まあ、うーん、そうなのかな(笑)。
でも、そうですよね。多分、そういう関係性だったり、箱の中での変化だったり、みたいなのを、提供する側も提供しやすいし。
西田:すなわちそれは、アイドルのプロモーションの――プロモーションっていうか、プロデュースの1つの方法論なわけじゃないですか。
昔から、いわゆる箱ものアイドルというか、AKBみたいなものって複数あるわけじゃないですか。メジャーなのからメジャーじゃないものまで含めて。
で、それらの方法論では、複数の子を用意して多様性を出して、それぞれのキャラクター性によって、結局、中で「この2人の子が仲いい」「この子たちは組み合わせると面白いとか」で、セット売りみたいな形で人気を得ていったという流れというのがあると。
広田:そうですそうです。
西田:やっぱり同じように、いわゆるバーチャルキャラクターっていうか、外側がVTuberであったとしても、同じような売り方のが結果的には広がっていったということですか。
広田:そうですね。
■VTuberと「グッズ」
広田:生身のタレントとちょっと違うのは、やっぱりキャラクターでもあるので、グッズの展開がすごくしやすい、というところもあって。
西田:ああー、はいはい。
広田:それは当たった時にすごく大きくて。収益の柱がいっぱい立つわけですよ。
特にVTuber業界で大きいと思うのが「ボイスの販売」。結構どのVTuberさんも出してたりする。
西田:ボイスの販売って、これはちょっと本当に知らない。
それって、セリフそのものを売るのか、いわゆるボイスモデルみたいなのを売るのか。
広田:シチュエーションみたいのがあって。シチュエーションに対してのボイスを出してくれたりとか、ということが結構多かったりするんです。それを、例えばにじさんじさんとかはシーズンごとにちゃんと出してくる、みたいなのがあるんですよね。
「今回は、○○さんと◯○さんと……」で、10人とかぐらいのセットみたいのが全部で2万円とかで売ってたりとか。それぞれシーズンで変わったボイスが期間限定で売って、たまに再販しますよ、みたいな感じで。期間限定だから買おうかな、みたいな効力も働いたりするんですけど。
ボイス販売が強いのは、要するにBOOTHで無在庫で売れる、っていう部分ですね。ビジネスとしては、「在庫を持たなくて済む」ということで、リスクがすごく低い。
西田:例えば、アクリルスタンドを作ったりすると当然在庫リスクはあるけれど、そうじゃなくて、ボイスだったらオンラインで売るからリスクは低いと。
広田:そうですね。それをちゃんとうまく、シーズンで設計立ててうまく出してきてる、というのは、すごく収益も大きいと思いますよね。
西田:なるほど。そういうところも含めて、どういうものが売れるかであるとか、どういうふうにしてそれぞれのキャラクター、中の人も含めた個性を売っていくか、みたいなことというのが、いろんな方法論を考えた上でプロデュースされて今に至る、というところなわけですね。
広田:あと「海外に対しても売りやすい」というのも重要。
日本人のタレントって、日本の顔で、そのまま海外に売ろうとした場合に、やっぱりかなりハードルが高くなると思うんですよ。
西田:そうですね。韓国までちょっとブランド化して、体系化して売るんだったらまた別なのかもしれないですけども。
広田:それが、アニメの顔にすることによって、人種に関係なく売れるっていうことから海外輸出が始まって。
『キズナアイ』ちゃんとかもそうなんですけど。
一番最初にアイちゃんは確か、タイか韓国かなんかで1回有名になって、そこから英語圏に波及していった、みたいのがあるんですよ。2017年とかにはもう、チャンネル登録者の半分以上が海外だよ、みたいな状況。
西田:ああ、そうですよね、確か。
広田:そこから日本でも「海外で話題になってるらしいよ」みたいな感じで火がついた、みたいな感じも結構あったりするんですけども。
海外の人たちも、「アニメという文化に親しんだ感じのキャラクターが、リアルタイムで動くものとして出てきてくれた」みたいなのを、ハードルが低く受け入れたんじゃないかな、という状況が多分あったと思うんですよね。
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