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責められる時代を明るくするヒント
2024年の漢字は、「金」だそうだが、個人的には別の漢字が思い浮かんでいた。
「責」だ。自己責任。責める。責められる。
僕自身、経済の情報に多く触れているので偏りもあると思うが、新NISAが始まり、世界経済や投資に興味を持つ人が増えたように感じている。それと同時に膨らんでいるのは将来への不安だ。24年後半になって、女性誌の企画に呼ばれることが多くなったが、その多くが将来への不安に関する対談や座談会、悩み相談だった。新NISAによって老後に向けたお金を運用しやすくなったのはいいことだが、みなさんでリスクをとって自己責任で運用してくださいと言われているようなものだ。あるいは、年金だけでは足りないから自己責任で準備してくださいというメッセージかもしれない。
周りの人が投資を始めた、投資で儲けているという話を聞くと、自分もお金や投資の勉強をしないといけないのでは、と自分を責めてしまうという声も聞いた。
24年12月に発表された流行語大賞の年間大賞には、「ふてほど」が選ばれた。これは「不適切にもほどがある!」というドラマのタイトルの略称だ。このドラマは過度なコンプラ社会に責められて疲れている僕たちの気持ちを代弁してくれた。
また、個人的に興味深かったのは、流行語大賞のトップ10に入った「もうええでしょう」だ。ドラマのセリフが年間大賞をとったのは、ドラマ「半沢直樹」の「倍返し」(2013年)が最後だが、それとは対照的なセリフだ。「半沢直樹」のように、これまでの日本で人気だったのは、弱き者が協力して悪い強敵を倒す物語。一方、「もうええでしょう」というセリフが登場するドラマ「地面師たち」は、真逆で、悪者が真面目に生きている人たちを騙すストーリー。
それなのに、このセリフが人々を魅了したのは、視聴者が「悪者に憧れたから」ではないだろう。「責められる疲れ」を吹き飛ばしてくれるからだ。契約交渉の場面で、ピエール瀧さん演じる詐欺師が、取引相手に責められる。ところが、「もう、ええでしょう!」と一喝すると、瞬時に立場が逆転する。それが爽快なのだ。
自己責任社会からもコンプラ社会からもいろんなところで責められる僕らは、他人を責めて楽になりたいと感じてしまう。SNSにはそんな言葉が増えている気がしてならない。しかし、それが連鎖して次の「責め」を生んでいる。25年こそは、この連鎖を止めないと、ますます生きづらくなる。
この考えにいたったのは、平野啓一郎さんの短編小説集『富士山』に収録されている「ストレス・リレー」という作品を読んだからだ。
この物語にはその連鎖を止める英雄ルーシーが登場する。彼女は特別な能力を持っているわけではなく、僕らも心がけ一つで英雄になれることを教えてくれる。
25年を明るくするために、年始に本を読もうとされている人も多いだろう。その中の一冊として、この物語を手に取ってみてはいかがだろうか。生きやすい社会を作るヒントがきっと見つかるはずだ。
新しい年が、みなさんにとって希望に満ちたものになりますように。一緒に「責め」の連鎖を断ち切れますように。
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お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …
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