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豚キムチから考える食料自給率

*アエラに連載中の「経済のミカタ」を一部変更して掲載しています*

円安やアメリカ産牛肉の生産量の減少によって、輸入牛肉の価格が上がり続けている。豚肉は国産も輸入も価格があまり変わらないそうだ。
このミートショックの話を聞いて、ふと大学時代の話を思い出した。

その日、住んでいた学生寮の食堂で、寮の先輩が食事の準備をしていた。彼は50%引きのシールが貼られたメンチカツをゲットしていて、さらに豚キムチを作っていた。

あまりにも肉肉しい献立に、「野菜食べた方がいいですよ」と余計なアドバイスをしたところ、「豚キムチに野菜入っているやろが!」と怒鳴られてしまった。今にして思うと、怒りの原因は日本の農業にあったのだ。

日本の食料自給率は価格ベースで70%前後、カロリーベースで40%程度と言われている。
しかし、彼の献立に関していうと、ほぼ0%なのだ。

そんなはずないと思うかもしれない。
豚キムチに使われている豚肉の食料自給率(国内産の割合)は約50%。メンチカツの肉が合い挽きだとすると牛肉も入っている。牛肉の食料自給率は約35%。衣に使われている小麦粉も自給率は低いとはいえ13%。

しかし、これらの数字は日本全体の平均だ。
貧乏学生だった僕らが、国産の豚肉を買えるはずがない。おそらくアメリカ産かカナダ産だっただろう。
安いメンチカツに使われている合い挽き肉も外国産。国産小麦の使われている小麦粉を使っているはずもない。
キムチだって韓国産。彼の食事の食料自給率は正真正銘0%なのだ。

僕らのような貧乏学生は国産の食料なんて買えない。
必然的に野菜の摂取量は少なかった。生鮮野菜は保存が利きにくいから、ほとんどが国産で価格も高い。メンチカツにキャベツの千切りを添えたくても買えなかったのだ。国産の白菜も買えない。

怒れる先輩の献立はある意味必然だった。食べたくても、生鮮野菜は買いづらい。野菜を取るなら保存の利きやすいキムチになる。
「豚キムチに野菜入っているやろが!」と叫びたくもなるのだ。

日本が食料を輸入に頼っているのは、平地が少ないという地形の制約もあるが、貿易の考え方がアップデートされていないからではないだろうか。「賃金の高い日本は、農作物などの一次産業は輸入に頼って、高付加価値のものを作って売ればいい」と長年言われてきた。

ところが、食料自給率の高いアメリカ、カナダ、フランス、オーストラリア、これらの国すべてに、賃金の面では日本はとっくに抜かれている。さらに輸送費もかかるはずなのに、豚肉をアメリカやカナダから輸入しているのだ。

賃金が高いからではなく、農業の生産効率において、日本が負けているということだ。輸入に頼るせいで、円安になると台所事情が苦しくなる。貧乏学生の僕らのように予算の少ない人ほど食料自給率が低いため、輸入価格の影響は顕著になる。農業へ投資をして、生産効率を上げることを考えないと困窮する人はますます増えてしまうのではないだろうか。

食料安全保障の観点からも自給率を上げた方がいい。
生産効率が上がれば、国産の生鮮野菜だって安く作れる。
僕も怒鳴られずにすんだはずなのだ。

(追伸)
この記事を読んでくれた大学時代の先輩から連絡がきました。元気に霞ヶ関で働いているそうです。


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