「インフレ対策に株式投資」本当に信じて大丈夫?
昨日、『羽鳥慎一モーニングショー』に出演したとき、大谷選手の活躍についてコメントを求められた。
彼のすごいところは、前例に囚われずに挑戦し続けるところにあると思っている。高校時代の恩師、佐々木監督が、「先入観は可能を不可能にする」と常日頃から言っていたそうだ。
「先入観」は、人を思考停止に陥らせる。
僕がトレーダー時代に気をつけていたのも、先入観に惑わされないことだった。どんな可能性も起こりうることをつねに考えないと足をすくわれる。
金融市場では、これまでの常識が覆されることがしばしば起きる。
例えば、2020年4月、ニューヨーク取引所で起きた出来事。前週末に18ドルで取引されていた原油先物が急落し、0ドル近辺にまで達した。これは買い時だと考えた投資家たちが、大量の原油先物を購入したが、価格は0ドルで止まらず、最終的にマイナス40ドル近くまで暴落。多くの投資家が大きな損失を被った。「価格がマイナスになることはない」という先入観が彼らの判断を誤らせたのだ。
マイナス金利もそうだ。預けているお金が減ることなんておかしな話だが、現実として起きている。
昨今、「インフレから資産を守るために株式投資がいい」と言われているが、ここには、「経済は成長し続ける」という先入観が潜んでいる。
僕は疑り深い性格だ。
今回は、日本経済において、「経済が成長せず、株式投資がインフレ対策にならない」可能性について考えてみようと思う。
そもそも、株式投資の利益はどこから来るのか?
それは、主に二つの「財布」からやってくる。一つは投資先の企業の財布。
例えば、トヨタ自動車の株を買ったとしよう。トヨタ車が売れて業績が伸びると、トヨタの利益の一部は、株主への配当として分配される。
そして、二つ目は他の投資家の財布だ。トヨタの業績が伸びなくても、株を買いたい人が増えれば株価は上昇し、その差額で利益を得ることができる。この利益は株を高値で買ってくれた他の投資家の財布から来るものだ。
つまり、株価は企業の業績と投資家の需要で決まる。
まず、一つ目の「企業の業績」について。
今後どうなるだろうか?
一企業についてであれば、その会社の頑張り次第だが、日本企業全体の話であれば、日本全体の消費がどれだけ伸びるかに左右される。
消費される金額は「消費量×物価」で決まる。
「株式投資はインフレ対策になる」という先入観には、「全体の消費量が変わらない、もしくは増える」という前提が隠されている。
たとえ物価が上がっても、全体の消費量が減少すれば、企業の業績は悪化し、株式投資がインフレ対策として機能しない可能性があるのだ。
ここで重要なのが、日本の人口減少だ。
国立社会保障・人口問題研究所の人口将来推計(死亡率中位出生率低位)によると40年後の日本の総人口は3割減って8680万人になると予想されている。
ここまでの40年は、日本の総人口は1億2000万人台でほとんど変わらなかったが、これからの40年では劇的に減少する。
つまり、物価が上がっても全体の消費量が減れば、消費金額は減る。株価も下がる可能性がある。インフレ対策にならないのだ。
では、全体の消費量を減らさないためにはどうすればいいか?
1人当たりの消費量を増やすというのは手だが、それには限界がある。昭和の高度成長期にならいざ知らず、物質的に豊かになった現代の日本社会ではそこまで増やすことはできない。消費が伸びなければ、設備投資を増やせばいいじゃないかという人もいるが、消費が増えないのに設備投資を増やす会社はいない。
可能性としてあるのは、輸出を増やすという手だ。しかし、もちろんそう簡単にはいかない。
そして、仮に消費や設備投資や輸出を増やせたとして、問題はここからだ。
それらを生産する能力が、果たしてあるだろうか?
総人口が3割減ると書いたが、生産年齢人口(15〜64歳)の減少率はさらに高い。現在7350万人いる日本の生産年齢人口は、40年後には4510万人と4割近くも減少するそうだ。農業でも介護でも今後もあらゆる分野で人手不足は続いていく。地方にいくほど問題は深刻になるだろう。
(生産年齢人口は30年前から始まっていたが、女性の労働参加率の増加でなんとか補えていた。しかし、女性の家事育児の負担は減っておらず、単に女性に皺寄せがいっていただけだった)
つまり、今と同じだけの生産量を維持するためには、これまで10人で行ってきた作業を6人でこなさないといけなくなる。工業製品ならAIや機械化の進展で対応できるかもしれないが、介護などのサービス業の分野では大きな課題だ。
ここで気をつけなければいけないのは、これらの課題をすべて克服して、全体の経済規模がようやく現状維持できるということだ。経済がこれまでのように「成長し続ける」とか「株式投資はインフレ対策になる」といった楽観的な前提は、今後の人口減少社会を見据えると非常に無責任であると言える。
そして、もう一つの要素である「投資家の需要」についても考えなければならない。確かに、現在NISAによる積み立て投資を始める人が増え、株を買う人が増加しているため、株価上昇圧力がかかっている。
しかし、いつかは積み立てを崩して現金化する時が来るだろう。40年後に定年を迎えたとき、多くの人が株を売り始めるとどうなるだろうか。新たに社会人になる人口は大幅に減っているため、株を買いたい人は少数しかおらず、売りたい人が多数派になる。このとき、安く売りたくないと思っても、生活資金が必要であれば売らざるを得ないという状況に直面する。
今から40年前、年功序列や終身雇用制度に対する疑問の声は少なかった。初任給が低くても、将来は昇進して給料が上がるものだと信じていたからだ。しかし、40年経った今、「こんなはずじゃなかった」と嘆息する人も多い。会社の人口構成がいびつになり、上が詰まっていて昇進も昇給も見込めないという現実に直面している。
この人口構造による問題が、賃金の世界から投資の世界に移るのではないだろうか。
念のためだが、ここまで話したのはすべて日本株の話だ。
日本株が下がらない未来も当然存在する。これは、あくまでも可能性の話だ。
40年後、日本株が上がっていてくれた方が嬉しいという気持ちではある。
(ここから先は有料部分。読んだ本、活動日記、裏話など)
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半径1mのお金と経済の話
お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …
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