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円安礼賛ー「過去最高の輸出」のウソ

いったい、どこのどいつなんだ。「日本にとっては円安の方がいい」と言っていたのは……。

 多くの人が実感しているように物価上昇はやみそうにない。諸悪の根源は円安なのだが、一方ではかつて、「日本の輸出企業が儲かるから、円安が望ましい」という論理が経済紙では幅を利かせていたが、年に1回の“答え合わせ”の時期がやってきた。

 財務省が1月23日に、2024年の貿易統計速報を発表した。それによると、24年の輸出額は107兆913億円だったそうだ。経済ニュースのヘッドラインには「輸出は過去最高」と書かれている。この数字だけ見れば「ちゃんと日本製品が売れてるんだ」と安心しかねないが、この1年間でドル円相場はさらに円安が進んだ。

23年は1ドルあたり140.56円だったのが、24年には151.58円と、10円以上も円の価値が下落した。7.8%ほど目減りしたことになる。だが、輸出総額の伸びは6.2%増にとどまる。円ベースで見れば金額は過去最高でも、ドル換算するとむしろ減っていて、実際の輸出量も落ちているのだ。

 ヘッドラインには「輸出は過去最高」と書かれていても、内情は全く違う。1年で10円以上進んだ円安による物価高で消費者が困っているにもかかわらず、実は輸出品が売れていませんでした、とはなかなか書きづらいのだろう。こうした経済ニュースは、企業側の論理を取り上げることが多く、これまで円安が正義かのように伝えてきた。

「円安で日本製品が海外で売れるようになるんです」とあちこちで力説していた専門家や企業関係者は、何と説明するのだろうか。

 一方で、円安によって訪日外国人が増え、旅行消費、いわゆるインバウンド消費は24年に8.1兆円とこちらも過去最高を記録した。訪日客がせっせと日本でお金を落としてくれるのは観光業界にとって朗報だろう。しかし、これも諸手を挙げて喜べるわけではない。

 インバウンド関連の「旅行収支」はプラスでも、デジタルコンテンツやクラウドサービスなどを海外から買う“デジタル赤字”が拡大しているため、サービス収支全体としては赤字が膨らむ見込みなのだ。さらに、観光客が増えると国内旅行の需要も高まり、ホテルや交通費が値上がりする。海外観光客向けの料金設定が当たり前になると、逆に日本の消費者は「旅行費が高くなってしまって行きづらい」という事態になる。

 長びく円安がさまざまな形で私たちの生活を圧迫し始めている。かつて「日本にとっては円安の方がいい」と言われていたのは、あくまで企業側の理屈でしかない。消費者にとっては食料品の値上がりや光熱費の高騰が重くのしかかり、観光やレジャーのコストまで上がってはたまったものではない。仮に企業が利益を出して私たちの賃金が上がるのだとしても、それ以上に私たちの生活が圧迫されるのでは本末転倒だ。

 もちろん、経済政策を検討する際に企業の意見を聞くべきだが、それ以上に生活者を守る視点も大事なのではないか。経済とは決して「企業のためだけ」にあるわけではない。トランプ政権になって、貿易の駆け引きが増えそうだが、石破政権には生活者を第一に考えてもらいたい。

*こちらの投稿はアエラ2月10日号にも掲載しております。

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お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …

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