金利上昇で儲かる人、損する人
日銀の利上げをきっかけにドル円相場が142円にまで急落した。
ずっと超低金利の日本に暮らしてきた僕らにとって「利上げ」といってもなかなか実感がわかない。
ゴールドマン時代に金利市場をずっと見てきた僕でさえ、16年のトレーダー人生の中で利上げは2、3回くらいしか経験がない。
ここで、金利市場のマニアックな話をするつもりはないが、僕らの暮らしにどんな影響があるのかを少しばかり考えてみたい。
まず、金利が上がるからといって全体のお金が増えるわけではないという点を理解してほしい。
よく「複利効果」という言葉を聞くが、これはあくまで個人のお金についての話だ。例えば、「金利が6%なら、たった12年で貯金は2倍になる」といった説明がされる。
しかし、全体のお金の動きを見ると話は違ってくる。以下の引用は、お金の教養小説『きみのお金は誰のため』からのものだ。
預金者など利息を受け取る人のお金は増えるが、お金を借りている人は金利によって支払いが増えるので、お金が減ることになる。金利上昇で利息が増えても、それは誰かから誰かへのお金の移動でしかない。銀行などを経由して、社会全体で壮大なお金の貸し借りが行われているのだ。
主なお金の貸し手は預金者である個人や企業で、個人は1100兆円、企業も300兆円ほど預金がある。一方で、借り手は主に政府であり、企業や個人がそれに続いている。
では、金利上昇によってどんな影響があるだろうか。当然ながら預金を保有している人は恩恵を受ける。
「預金をしていても資産は守れない!インフレによって価値が目減りする」という意見があるが、これにはかなり嘘が混じっている。通常はインフレになれば、金利は上昇する。これまで金利が存在しない世界で生きてきたから、仕方ないことだとは思うが、投資をすすめたいがために嘘を並べるのは良くない。
変動金利で住宅ローンを組んでいる人などは、逆に利息の支払いが増えるが、全体の中ではかなり少数になる。
個人への影響は概ねプラスになりそうだ。しかし、あくまで直接的な影響の話である。
間接的な影響もある。
銀行から融資を受けている会社は利払いが増えるので、従業員への給料を増やしにくくなる。場合によっては倒産するケースも出てくる。
そして、日本一の借り手である日本政府の存在を忘れてはいけない。
預金者である僕らが受け取る利息の多くは、日本政府の支払う利息からやってくる。
その利息を支払うためには、税金を増やさないといけなくなるだろう。
繰り返しになるが、全体で見ればお金は増えたり減ったりしないのだから、預金金利が上がって全員がハッピーというわけにはならない。
金利を上げることで円高になれば、物価上昇に歯止めがかかる。一見すると大いなる恩恵があるように思えるが、実は恩恵も何もないのだ。
「金利を支払うかわりに、日本円を高く買ってもらう」だけの話だ。500円のキャッシュバックをつけることで、1000円の商品を1500円で買ってもらうようなものだ。そのキャッシュバックはさきほどの日本政府の支払う利息だったりする。
利上げによって、表面的には利息や円高などの恩恵に目がいくが、同じだけの負担が存在していることを忘れてはいけない。
より多く預金を持つ人が得をする影で、納税者の負担が増えることになる。
(ここからは有料部分。今週の活動報告や本文で書けない裏話など)
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半径1mのお金と経済の話
お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …
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