本日公休〜老いと年輪と滋味
小津安二郎のように六十歳の誕生日に逝き、還暦を純粋に達成した人もいるにはいるし、あれもこれも潔く打ち捨て、定年ならぬ諦念の境地に至るのが人の道というものなのだろうが、いまやあきらめたらゲームセットなのだった
あくせく働かなくともなんとかなる、逃げきれそうな気はする、だがしかしあれこれ備えておかねばならぬと、定年前に複数の副業に手を染めた結果、自分の身体も家族との関係も職場での立ち位置も微妙になった
やがてXデーが来て、想定外の再雇用となり、あまりの冷遇にますます微妙な気持ちを抱え、会社を辞めねば離婚と迫られたがゆえに辞めた
現役時代から年収大幅ダウンでさほど変わらぬ量の仕事に従うのは無理な相談だった
そもそも長く勤めるような先ではなかったし、辞めて上等ではあったが、自分と自分世代の引退とともに定年が延びたり賃金が上がったりする世の中になったのは腹立たしい限りだ
『本日公休』というタイトルを目にしただけで、これは絶対観るヤツと思ったものだが、理髪店の女主人は店を休んでまで、いまは遠方で暮らす常連客を訪ねる、あるいは常連客のもとへ出張するために店を休む
彼女自身もすでに老いている、引退の潮時と言ってよい、明日の自分を重ね合わせ、子どものころお世話になった床屋さんのことを思い出しながら、しみじみした
台湾でありながら景色がなつかしい、心温まらずや、文字どおりの佳作だ