探しにいったその先のこと ― 米津玄師『がらくた』が届いてほしい人に届いてほしい
米津玄師さんの新アルバム『LOST CORNER』に収録されている楽曲『がらくた』のことを、どうしても書きたい。この曲が届いてほしい人に、届いてほしい。
映画『ラストマイル』の主題歌であり、映画と世界を共有するドラマ『アンナチュラル』『MIU404』のファンであるわたしは、映画の主題歌だ~楽しみ~! と、わくわくした気持ちだけで再生ボタンを押した。
曲が終わって、何度も何度も繰り返し再生した。
この曲は、この曲が届いてほしい人に絶対に届いてほしい曲だ、と思った。もちろんわたし自身にも、とてつもなく沁み込んできた。こんな自分じゃだめかもしれないと漠然と焦っている自分に寄り添ってくれている曲だ、と心が震えた。
国民的、いや世界的アーティストなのに、こんなに大きなタイアップソングなのに、いつだって聴く人、そのひとりひとりの心の弱い部分に手をあてて、寄り添い続けてくれる、米津玄師って本当にすごい。
壊れていてもかまいません
インタビューを読んでいると、廃品回収業者の「壊れていてもかまいません」という呼びかけを思い出して作った、というエピソードがあった。
いやすごすぎるだろ。こんなこと思いもせず、ぼけーっと聞いていたよ、わたしは。「壊れたもん集めてどうするん、お金になるん」とか親に聞いちゃってたよ、わたしは。
足りないものがなにかも分からず、きっと何者かになっていくのだろう、とよくわからない確信めいたものをぼんやりと持っていた子どもの頃には、「壊れたもの」について考えることなんてなかった。
でも大人になるにつれて、何者にもなっていない自分に気付いた。自分にはなにかが足りてない気がする、なにかを失ってしまった気がする、なにか違う気がする、と漠然と焦って無理をする。自分は普通だ、大丈夫だ、なんて聞かれてもないのに、周りにアピールしようとしてしまうこともある。
この曲では、「30人いれば一人はいるマイノリティ いつもあなたがその一人 僕で二人」と寄り添ってくれたうえで、「例えばあなたがずっと壊れていても 二度と戻りはしなくても 構わないから 僕のそばで生きていてよ」とそっと手をとってくれる。
「壊れてなんかないよ」と絶望を否定することで、すこしの希望を見せる優しさもある。けれどこの曲では「壊れていても構わないから」とそのまま包み込んでくれる。すごいあったかい。米津玄師って本当に懐が広い。
探しにいったその先の話をしてほしかった
壊れていても構わない、とそっと手を取ってくれる。そして「どこかで失くしたものを探しにいこう」と、ともに探しにいこうとしてくれる。うれしい。いこう!
そしてその先に続くのは、「どこにもなくっても どこにもなかったねと 笑う二人はがらくた」という歌詞。これが本当に、ありがたすぎる。
知りたかったのだ。探しにいったその先のことを。その先の話をしてほしかった。
一緒に行こう!という歌詞はとても勇気づけられるし、よし行くぞ!と自分を鼓舞することもできる。でもその先にはなにがあるのだろう、と思う自分もいた。
どこかに行ってなにをするの? 探しに行って、ある可能性はどれくらい? なかったらどうするの? という最低なマジレスをしてしまいたくなるときもある。結果とか効率とかばっかり考える大人になっちまったから。
それをこの曲では答えてくれる。「どこにもなくっても どこにもなかったねと また笑ってくれよ」と、涙が出てしまいそうなほどに、あたたかくてやさしい言葉でさらりと返してくれる。本当にありがたい。米津さん、探しにいきましょう……
届いてほしい人に届いてほしい
「30人いれば一人はいるマイノリティ」ではありつつも、30人に一人以上の確率でだれかの心に響く楽曲だと思う。
具体的になにがというわけではなく、きっと多くの人が、自分はなにか違う、壊れているかも、と感じたことがあるからかもしれない。そして、どんなにあなたが壊れてたってかまわないよ、と心から言える人がいることが、いたことが、あるから、かもしれない。
わたしには、この曲が絶対届いてほしいなあ、と思う人がいる。がんばることは悪いことじゃないし、がんばる理由があるってすごいことだとは思うけれど、立ち止まれないところまで自分を追い込むのだけはやめてくれ、と手をとりたいと思っている。壊れてたってかまわないし、一緒になんでも探しに行くし、なんにもなくても笑いあいたい、と思う。
この曲がたくさんの人に届いてほしい。実際たくさんの人に届くのだろうとは思うけれど、届いてほしいと思うあの人に、この曲が届いてほしい。
映画公開前、『がらくた』という楽曲にもらった気持ちを書きました。映画館で聴いたらまたさらなる曲の良さ、歌詞の意味がずっしりくるんだろうなあ。