雲の向こうに富士山があったとしても、身も心も休まる素敵チル空間だったアブラサスホテル
東京まで車に迎えにきてもらい、東京まで送ってもらうまでの24時間。曇っていた眼と心が晴れ、まるで生き返ったかのように新鮮な気持ちで満たされた。ああ、いままで疲れていたんだ。そのことにすら気が付かなかったくらい気を張っていたんだ。
2020年からはじまった受難の世紀。我がままに旅をするのがはばかられる時代にオープンした、他のお客とは出会わず、スタッフともチェックイン・アウトのときしかコミュニケーションしない1棟まるごと完全貸切のホテル。そのコンセプトを実際に体験できたことに深く、強く感謝したい。
※文中に出てくるポイントは個人の感想です。
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2021年7月某日。僕は富士山の麓の街にいた。そこは1棟貸しホテルのアブラサスホテル 富士河口湖。友人の南さんが作った、7月にオープンしたばかりのホテルだ。「体験型の貸し切りホテルなんだけど、体験してみない?」とお誘いいただき、訪れた。
公式サイトを見ると"「額縁」に入った、本物の富士山"というキャッチコピーが目に入る。寝室の窓からも、キッチンからも、オープンリビングからも、バスルームからも、そして独立したサウナカーからも、富士山の美しい稜線が楽しめる...と記されている。
しかし悲しいかな、僕が訪れた日は富士山と出会えなかった。見上げるまでもなく厚い雲で覆われた空は灰色の絵の具で染めただけのキャンバスのよう。本来ならば窓や屋根によって美味しそうに切り出して魅せることを意識して作られた借景は、人為と自然が織りなす風光明媚な美術館の風情を楽しませてくれるものなのだろうが、分厚い幕は一向に上がらない。
せっかくの推しと出会えないのか...と感じていたのは到着して10分くらいのこと。なぜならばアブラサスホテルは、雲の日でも雨の日でも癒やしの空間であることに違いなかったからだ。
そのキーとなるのが"体験"だ。さらにいうならば"チル"だ。
客室は2室×3ベッド。間接照明とダウンライトの明かりは光源が直接目に入ることがなく、優しい。直射するのは縦長のガラスドアから入る太陽の光だけ。それも照らすのは足元だ。眠る時は極力情報が入らないようにするという意思が感じられる。
※チルポイント+1
バスルームも情報を外部からの制限している作り。明かり取りの窓は立ったときと、湯船に浸かっているときに富士山を眺められる額縁となっている...ようだ。ただモノクロな曇り景色であっても優しい光が湯気で拡散していくのが美しい。
※チルポイント+1
2つある湯船の1つは、水風呂としても使える。キンキンに冷やしたい時は、キッチンの冷蔵庫から氷を持っていて、いくらでも冷やしていいという。逆に冷たすぎる水風呂が苦手な人は22度~といった、プールのような水温にしてもいい。
※体験ポイント+1
自分のペースに合わせられるのはサウナも、そう。
フィンランド製のサウナトレーラーは自分で割った薪を焚べて温度を調整するが、低温サウナでじっくりと温めるもいいし、ガンガンに燃やして熱気渦巻く限定スポットに仕立てるのもいい。
※チルポイント+1、体験ポイント+1
焚付け用の木片もあるし、太い薪はフィンランド生まれのキンドリングクラッカー&ハンマーで簡単に割れる。カーン、カーンと響く音もチルい。さらに着火剤や、長時間燃えるマッチも用意されており、面倒だと感じやすいポイントのことごとくをガジェットのチカラで時短につなげている。
※体験ポイント+3
結果、"体験"の密度がめちゃくちゃ濃い。短時間で美味しいところばかりいただける。その連続だ。
もちろん、アロマオイルを入れた水をサウナストーンにふりかけてのロウリュもし放題だ。決まった時間なんてない。自分が最高だと思えるタイミングこそが重要だ。
食事に関しても"体験"がある。
火力MAXな業務用コンロが使えるというのは、手料理好きの男子にとって憧れの空間にほかならない。僕自身、2chのチャーハンスレ(高火力が正義説が多い)を思い出したほどだ。
※体験ポイント+1
夕食と朝食用の食器は別々に用意されているのもポイントだ。最初は「食器、多くない?」と思っていた。そうしたら。
「食器洗いは、私たちにさせてください」とスタッフの言葉が記されたコンテナがあった。そうか、食器を使い終わったら洗わずにコンテナに入れておけばいいのか。
※チルポイント+100
ここでも、料理は好きだけど後片付けは苦手という男子ゴコロが健やかに伸びゆく。
食材だってあらかじめある程度カットされている。
マニュアルが用意され、下ごしらえは自分たちに任せられているというのも面白い。全部おまかせで食べるだけのホテル体験と、食材調達からゴミ捨てまで取り組むキャンプとの中間をいく...でもないか。既存のグランピングともまた違った"体験"な気がする。居心地よく機能性に満ちたハコにいる安心感があるから、気兼ねなくお気楽極楽な料理体験ができるところが違うのか。
※体験ポイント+1
スパイスラックからも感じていただけるだろうか。(調理をしなければご飯にありつけないという)労働ありきの自由の意味を。A+B+Cでいくか、Z+A2でいくか、味の探求という"体験"の共有が団らんとなることを。
※体験ポイント+3
いわゆるリゾートホテルのような感覚で行くと、自分たちの作業の多さにびっくりするかもしれない。しかし、やんややんやと話しながら、雑談しながらのプロセスはなによりも楽しいものだし、サウナにしても食事にしても満足度がほとばしるように高まっていく。ネト充な日々を送っていても、オフラインな楽しさってまったく色褪せないよね、とも感じる。
※体験ポイント+10、チルポイント+10
話を聞くに、みんなで調理をしてご飯をするという"体験"は、ホテルオーナーの南さんがOculus Questゲームのクックアウトで共同作業・共同調理の面白さを体験したからアブラサスホテルにも導入した要素だという。そう言われると「あーーーー」って思う。4人プレイ時のクックアウトでうまくいったときの達成感は、その気持ちをツマミに飲めるほどだったから。
※体験ポイント+50
前述したが、アブラサスホテルはオプションとして都内〜ホテル間の送迎サービスを行っている。ドアtoドアで自分たちだけしかいない貸別荘のようなホテルに泊まれるという、独自の体験を提供している。
※体験ポイント+100
愛車を持っている方であっても、送迎サービスはアリだろう。行きも帰りも、もしくは行きか帰りかを、本来はドライバーポジションの人でもリラックスしながら移動できる。その選択肢があることに感動する。
※体験ポイント+1000、チルポイント+1000
近隣に住む方への配慮は必要だが、基本的には一緒にいった家族やチーム、パーティだけの時間を過ごせるというのも、他の宿泊施設では味わえない"体験"だ。
※体験ポイント+10000、チルポイント+10000
リゾートホテルでもない。キャンプでもない。グランピングでもない。そのすべての美味しいところをギュッ、と集めて味わえるアブラサスホテル。移動時間含めたら24時間、現地滞在時間20時間で、僕らの他に誰もいない異世界にトリップしたかのような感覚が味わえるアブラサスホテル。海外旅行の難易度が極めて高いいま、そしてフリーに旅行ができる時代に戻ったとしても、この場の魅力は色褪せずいつまでの残るものだと実感した。
p.s.1
飲み物の類は持ち込み。送迎サービスを使えば手ぶらでトリップできるアブラサスホテルですが、ここぞ!というときに飲みたいドリンクを持ち込むことをおすすめします。
p.s.2
近くに道の駅なるさわがあります。送迎サービス利用時でも寄ってもらえます。ここの! ズッキーニの漬物が最高にうまい! まってまって鳴沢の子になりたいと思えるほど美味い! あとくるみ入り鳴沢菜の味噌が旨い! ブルーベリーをはじめとした果物や野菜の産地でもあり、スイーツ感を天元突破する1品も演出できますよ。
アブラサスホテルに予め用意されている食材はたっぷりめですが、食欲に自信があるならばぜひ寄ってみて! もしくは帰りに寄ってみて!
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