本屋大賞20年の個人的な思い出
本屋大賞は今年で20周年だ。
私も第1回目から投票に参加し、第2回目からは発表式にも参加している。ここ3年はコロナでそれも叶わなかったが、今年2023年は4年ぶりに参加できそうだ。
投票皆勤賞なだけで一参加者に過ぎないのだが、その視点からの思い出を簡単に残しておこうと思う。細かいことを書けばきりがないので、ざっくりとしたものだ。
第1回(2004年)
「本の雑誌」で本屋大賞の開催を知ったのだが、それは私が気づいたのではなく、確か師匠(故・児玉憲宗さん)から「こんなのが始まるらしいぞ。投票しようや」と言われて参加した気がする。
当時は規模感も分からなかったので、投票も手探りだったと記憶している。
投票した作品で明確に覚えているのは、伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』だった。当時、私は伊坂さんをめっちゃ推してて、この時から「いつかは本屋大賞を獲って欲しい」という想いを抱いていた。この年は『重力ピエロ』もノミネートに残っていた。
最初だったので自分が投票したのはミステリばかりだったと思うのだが、二次投票はノミネート作を全部読む、という条件が付くため、ミステリではない作品を読むことになる。
そしてこれがきっかけで、自分の読書の視野が明らかに拡がった、と間違いなく思っている。
本屋大賞がなければ、小川洋子にも、吉本ばなな(現・よしもとばなな)にも、森絵都にも出逢わなかったと思う。
第2回(2005年)
この年は『夜のピクニック』の圧勝だと思った。ノミネート作品ではほかに印象に残っている作品があまりないくらいだ。
この年に私が投票している作品に、第14位に入った乾くるみ『イニシエーション・ラブ』があるところが何気にすごい。もちろん、ブレイク前だし、映画化されるずっと前だ。
発表式に児玉さんと初めて参加した。当時は今の会場とは違い、やや狭い場所で、ものすごく人が集まって熱気がすごかった。
実は発表式では「花束贈呈」役をやらせていただいたのだが、今ほど取材陣がいなかったので、もう本当にすぐお渡ししただけで終わってしまった。あまりにも呆気なかった。
そしてこの時に、本の雑誌社の杉江さんが児玉さんに「Web本の雑誌にコラムを書いてくださいませんか?」と依頼されていた。これが『尾道坂道書店事件簿』の始まりである。
第3回(2006年)
発表時に既に100万部突破していたリリー・フランキー『東京タワー』が大賞になったことで、いろいろ物議を醸すきっかけになった回だと記憶している。
でも結局は、100万部が200万部、いやもっとか、売れたわけで、本屋大賞の効果を実証した形だ。
でもこの年はあまり印象に残ってなくて、伊坂幸太郎『魔王』に投票したことと、古川日出男『ベルカ、吠えないのか』がめちゃくちゃよかったことだけをよく覚えている。
第4回(2007年)
森見登美彦と万城目学に出会った衝撃として記憶に残る回。『鴨川ホルモー』と『夜は短し歩けよ乙女』の奇妙な世界にハマった。確か発表式に両名とも参加されていたように記憶している。
第5回(2008年)
「伊坂幸太郎に本屋大賞を獲らせたい!」の悲願がかなった年。2位の近藤史恵『サクリファイス』も嬉しかった。本当にたくさんの人が伊坂さんに挨拶する中、最後の方でやっと声を掛けたら「存じ上げております」と言われたことがめちゃくちゃ嬉しかった記憶がある。
第6回(2009年)
湊かなえ『告白』という、デビュー作がいきなり本屋大賞を獲った年。湊さんが尾道出身(当時は因島市だが)なので、地元書店としても大いに応援したのを覚えている。
中締めの挨拶を児玉さんがされた。「原稿を用意していたのに、荷物と一緒にクロークに預けてしまった」と、完全にアドリブで喋ったのだった(のですよ、皆さん)。
めっちゃきれいな人が会場におられるなあ、と思ったら、杏さんだった。
この年の発表式の模様のページに、児玉さんも杏さんも映っている。
第7回(2010年)
個人的には藤谷治『船に乗れ!』を絶対的1位として投票に参加した。小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』も印象に残った。
大賞の冲方丁『天地明察』は、本屋大賞初の歴史(時代)小説作品だった。私は苦手なジャンルなので、ああ評価の高い作品なんだなあ、と思った程度だった。
第8回(2011年)
発表式の直前に東日本大震災があり、まだ東京なども節電要請が出ていた頃。児玉さんは車椅子だったので、エレベーターなどが止まっている可能性があるから、ということで、発表式を欠席された。
大賞は東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』。東川さんも尾道出身(というか、尾道生まれなだけで、すぐ引っ越したらしいが)ということで、うちの会社ともちょっと縁を感じていた。
この年のノミネートでは、梓崎優『叫びと祈り』と奥泉光『シューマンの指』が特によかった。窪美澄さんという素晴らしい作家を知ったのもこの年だ。
第9回(2012年)
大賞になった三浦しをん『舟を編む』、2位の高野和明『ジェノサイド』、4位の中田永一『くちびるに歌を』など印象深いが、個人的にはなんといっても宮下奈都『誰かが足りない』の年。
この2年前に「書店員秘密結社」企画で『スコーレNo.4』を売り、この年に『誰かが足りない』がノミネートした、ということを受けて、のちに本屋大賞を受賞することになる。
第10回(2013年)
ノミネート作品に上下巻や三部作などの大作が多く、ノミネートを全部読むのにみんな苦労した年。その中でも、大賞の百田尚樹『海賊と呼ばれた男』、2位の横山秀夫『64』、7位の宮部みゆき『ソロモンの偽証』など素晴らしい作品も多かった。個人的には『64』の方が一枚上手かなと思っていたが……。
で、この年の二次会は信濃町のプロントでやった記憶があるのだが、まだ「わいがや会」という名ではなかったかも知れない。どうだったろうか。
第11回(2014年)
この年はなぜかあまり印象に残っていない。作品は長岡弘樹『教場』に投票した記憶はあるのだが。
第12回(2015年)
この年も大きな印象に残ったものがないのだが、西加奈子『サラバ!』が素晴らしかったのを覚えている。投票としては米澤穂信『満願』の圧勝で、一次も二次も1位として投票したはずだ。
第13回(2016年)
宮下奈都『羊と鋼の森』。我々の手で宮下さんをあのステージに上げた、という達成感に溢れた年となった。宮下さんの嬉しそうな表情を見てるだけで私達も嬉しくなった。
この年は異常に記憶に残っていて、TBSの「ゴロウデラックス」の取材を受けた。発表式会場では外山絵里アナウンサーにインタビューされ、さらに、宮下さんが広島の書店をお礼を兼ねて回られた時にもカメラが密着し、懇親会の様子まで流れた。文春さんからDVDをいただいたが、恥ずかしくて観なかった。
そして、記念品としてTシャツが作られたのもこの年が最初だった。
児玉さんは体調が悪く、発表式は欠席された。
この年の秋に亡くなることになる。
第14回(2017年)
恩田陸『蜜蜂と遠雷』は、二つの「初」を作り上げた。「同じ作家が二度目の本屋大賞を受賞した」ことと、「直木賞受賞作が本屋大賞になった」ことだ。
特に後者、直木賞受賞作は今までノミネートに上がることまではあっても、大賞にまではならなかった。なんとなくのバイアスがかかるからだ。それでも受賞したのは、それだけの作品なのだ、ということで、私もそういう意味で強い意志を持って『蜜蜂と遠雷』に投票したが、やはり批判の声が上がってくるものだった。必死に説明したが、まあ伝わってはないだろう。
第15回(2018年)
辻村深月『かがみの孤城』は発売当初から圧勝感が強かった。メフィスト賞受賞当時から読んで来た作家さんなので、ここもなんか特別な感慨があった。
他にも、柚月裕子『盤上の向日葵』、今村昌弘『屍人荘の殺人』、今村夏子『星の子』など強い作品が多かった。
第16回(2019年)
瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』。非常にいい作品だったが、個人的には小野寺宜彦『ひと』、森見登美彦『熱帯』、芦沢央『火のないところに煙は』も印象深い年。
この年は「わいがや会」の幹事をやったので、二次会の印象が強い。ほんまさんと初めて会ったのもこの年だ。
第17回(2020年)
コロナの波がものすごい勢いで押し寄せ、発表式は無観客で配信という形で行われた年。
しかも、発表式の日に「緊急事態宣言」が出る、という異例の年だ。
凪良ゆうさんも悔しかったと思うし、東京創元社のみなさんも悔しかったに違いない。
ほんの1ヶ月前までは発表式も開催しそうな雰囲気で、「わいがや会」も当然やる気満々で、会場の下見までやったのだが、時流の流れでこちらもキャンセルになってしまった。非常に残念である。
第18回(2021年)
この年もほぼ無観客だったろうか。会場でみんなに会うことになるのは何年後だろうか、と思っていた年だ。
第19回(2022年)
コロナの波はまだ強かったが、関係者及び近隣の書店員のみ集まり、縮小された形で発表式が行われた年。もちろん私は不参加である。
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を打て』は、ちょうどロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後というタイミングでの受賞となってしまった。投票当時はそんなこと想像もできなかったので、この受賞がタイムリーだった、というのは少し違うと思う。
そして逢坂さんのスピーチが素晴らしい内容だったことは記憶にとどめておきたい。
さて、第20回記念となる2023年は、どうなるだろうか。
発表式に参加するのも4年ぶりだし、いろいろ久しぶり過ぎて妙なテンションのままでいる。本屋大賞が終わったらいろんな思いが溢れて倒れてしまうのではないか、とまで思っているくらいだ。
では、参加予定の書店員の皆さん、4月12日に会いましょう。
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