ネクタイの柄に込められた物語
会社から帰る電車で、運よく座ることができた日のこと。
ラジオを聞いていたのでボーッとしつつも目はスマホから離れ、前にいる人々や車内広告なんかをぼんやりと見ていた。
ちょうど私の前に立った男性のネクタイに目が止まった。
クリスマスツリーの柄が小さく入ったものだった。
薄紫色の布地に緑色のクリスマスツリーが水玉模様のようにいつくもプリント(刺繍かも)されている。
よーく見るとわかる程度の小さな柄が控えめにクリスマスをお祝いしているようで可愛かった。
男性の顔は見たような見ていないような、私よりも年上だと分かった、ということは見たのかもしれない。
「ネクタイ、かわいいですね」
と心の中でその男性に伝えてみた。
でも、クリスマスはだいぶ過ぎてしまったのになぜそのネクタイ?もしかしてクリスマスプレゼントととして大切な誰かから貰ったとか?
嬉しすぎてそれをずっと身につけていたい。そういう事だったりして…。
そんなことを考えていると私はいつものように頭の中がストーリーでいっぱいになる。
こんなかわいい事して、実は会社ではトゲのある発言ばかりする嫌な上司だったりして…。
もし私がこの上司の前でチクチク言われていて、手を前に添えたまま硬直したような姿勢でずっと彼の発言に耐えているとしよう。
想像上の私はその上司に何て言ってやろうか…。
「ネクタイ、かわいいですね」
やっぱそうなったか…。
そうこうしているうちに終点の駅に着いて解散状態となった。
人には裏や表以上に多くの側面がある。それは時と場合によって異なったものになる。だけど、いつもとは違うところが見えた時が一番面白い。私はこの瞬間がけっこう好き。
「こんな一面もあるんだね」と、さらにその人を知れた気になるから。
従順の中の野心とか、怒りのそばにある優しさとか、ふっと心が浮く瞬間、それが好きなんです。
とここまで書いていて、ただ前に立った人のネクタイに注目しただけで、その男性が嫌な上司であることも、大切な誰かから貰ったプレゼントだということも私の妄想だというのに、よくこんなに盛り上がれるなと自分でも引いています。
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